[N-004] 多発褥瘡の治療中にヨウ素中毒による意識障害を呈した一例
【症例】60歳代、男性。【主訴】発熱、体動困難。
【現病歴】大酒家であり、2年前に退職して以降はほとんど食事を摂らず飲酒を続けていた。1ヶ月前から徐々に歩行困難となり寝たきりとなった。来院前日より38.2℃の発熱があり、解熱しないため家人により救急要請された。
【身体所見】体温39.3℃、血圧124/92 mmHg、脈拍数135回/分、呼吸数14回/分、SpO2 96%(室内気)、意識はGCS E4V1M5。るい痩が著明であり、全身が汚染している。胸部聴診で明らかなcracklesを聴取しない。四肢は拘縮しており、仙骨部、両側大転子部、左膝、左外果に褥瘡がある。
【検査所見】WBC 16700/μl (Neut 79.0%, Eos 1.0%)、Hb 12.3 g/dl、Plt 51.6×104/μl、Na 154 mEq/l、K 4.1 mEq/l、Cl 112 mEq/l、UN 51.4 mg/dl、Cre 1.13 mg/dl、CRP 21.31 mg/dl。胸部CTで左下葉背側に気道散布性の粒状影を認める。
【経過】多量飲酒によるビタミンB群欠乏等を背景としたADLの低下があり、最終的に誤嚥性肺炎や褥瘡感染を合併したと考えた。ビタミン補充および抗菌薬治療、療養環境調整目的に入院とした。褥瘡に対してはポビドンヨード含有軟膏による処置を開始した。意識障害は入院後すみやかに改善し、抗菌薬投与により解熱も得られた。退院調整を行っていたが、第43病日頃から次第に傾眠となり、食事もほとんど摂取しなくなった。血液検査、頭部CTでは明らかな異常を指摘できなかった。尿中総ヨウ素を測定すると26600 μg/lと高値であり、ヨウ素中毒による意識障害と診断した。ポビドンヨードの塗布を中止したところ意識レベルは徐々に改善し、第65病日に自宅退院となった。
【考察】ポビドンヨードは熱傷や壊死性軟部組織感染症を治療する集中治療領域、一般病棟や在宅での褥瘡処置など医療現場で幅広く使用されているが、ヨウ素中毒により意識障害がみられることはあまり知られていない。ポビドンヨード使用中の患者が意識障害を発症した場合にはヨウ素中毒を鑑別に挙げる必要がある。
【結語】多発褥瘡の治療中にヨウ素中毒による意識障害を呈した一例を経験した。