[N-001] 術後の持続する発熱を契機に無汗症と診断した1例
【背景】無汗症はうつ熱を契機に診断される場合があるが、極めて稀であることに加え、器質的な異常が見つからず診断に難渋しやすい。【症例】55歳男性。【主訴】発熱。【病歴】ダウン症による重度精神発達遅滞のため疎通困難で障害者支援施設に入所中だった。X年2月に施設内で転倒し、右大腿骨頸部骨折に対して当院整形外科で手術を受けた。術後より持続する38℃台の発熱と高Na血症を認めたため総合診療科へ院内紹介となった。【所見】多動で安静が保てず身体抑制を行っていた。顔面・四肢にアトピー性皮膚炎様の鱗屑・苔癬化あり、体幹部を中心に多数の掻爬痕、口唇に落屑、頭髪は疎毛、両腋窩の乾燥を認めた。胸部:雑音なし。腹部:圧痛なし。浮腫なし。術後創部に熱感なし。【経過】診察や画像検査で明らかな熱源を認めず、炎症反応は低値で、血液培養を含む各種培養検査もすべて陰性だった。入院前より複数の抗精神病薬を内服しており、薬剤熱を疑って使用中の薬剤はすべて変更・中止したが、むしろ熱型は悪化した。皮膚の乾燥所見や、高熱時に発汗がないこと、本人が就眠している深夜の体温測定で発熱を認めないことから、発熱の原因として無汗症を疑った。ミノール法による発汗試験を行ったところ、足底を含む全身の皮膚で発汗低下を認め、無汗症と診断した。体幹部に対するクーリングを開始したところ、以後は解熱が得られ、臨床的にも診断に矛盾はなかった。その後の聞き取りで、入所中の施設でも熱源不明の発熱が夏場を中心に認められていたことが確認されたが、いつから症状が出現したのかは不明だった。【考察】本症例で術後に発熱が持続した原因として、術後せん妄による多動のため、無汗症によるうつ熱を生じたことが原因と考えた。無汗症の原因について検討したが、十分な病歴聴取が難しく原因不明だった。【結語】熱源不明の発熱を認めた際には、体温調節機能の障害である可能性を考え、無汗症を鑑別診断に挙げて検討する必要がある。