[N-010] 20年の時を経て肝転移、心臓転移にて再発した右眼部悪性腫瘍の1例
【症例】87歳男性【主訴】全身倦怠感、食欲不振【既往歴】右眼部悪性黒色腫(X-20年に右眼球摘出術)【現病歴】X年Y-1月より全身倦怠感ならびに食欲不振が出現した。症状が持続するため、Y月6日精査に当科紹介受診となった。造影CTにて多発肝腫瘤、心右室内腫瘤を認めたため精査目的にY月10日当科入院となった。【身体所見】バイタルサインに異常は認められず、右眼窩内に悪性黒色腫の局所再発所見はみられなかった。【血液検査所見】白血球11,180/μL、Hb13.2 g/dL、AST 41U/L、ALT 32U/L、LDH 416U/L、CRP 0.63mg/d L【経過】肝腫瘤の鑑別として原発性肝癌ならびに転移性肝癌を挙げた。AFPやPIVKA2など腫瘍マーカーの上昇はなく、上下部消化管内視鏡検査においても悪性腫瘍は指摘できなかった。EOB-MRIを撮像したところ、同病変はT1強調像で高信号を呈し、肝細胞相にてEOBの取り込み低下がみられた。同所見より悪性黒色腫の肝転移を疑い、腫瘍生検を実施した。病理組織検査では、悪性黒色腫に特徴的なメラニン顆粒を有する腫瘍細胞が認められた。心右室内腫瘤については、血栓と腫瘍の鑑別は困難であったが、経食道心エコー図検査で、病変の右室心筋内への浸潤を認め、悪性腫瘍が強く示唆された。年齢から心筋生検の施行には至らなかったが、肝臓病変の存在ならびに疾患頻度から悪性黒色腫の転移と判断した。以上より、治癒切除された右眼部悪性黒色腫が、20年の時を経て肝転移および心臓転移として再発したものと診断した。【考察】悪性黒色腫治療後は、一般的に5~10年程度の経過観察が推奨されている。本症例においても、治癒切除後10年間まで経過観察がされており、その間に再発兆候はみられていなかった。本症例は、転移・再発に20年もの長期間を要した点や、さらに心臓病変も伴っていた点など、極めて示唆に富む症例と考えられた。【結語】悪性黒色腫治療後においては、長期間の経過観察が必要であり、心臓を含めた特殊部位の転移再発にも留意する必要がある。