[N-003] 左肩痛で発症し痛みの性状や既往から診断に至ったアメーバ肝膿瘍の1例
【背景】Kehr徴候は脾破裂などで左横隔神経が刺激された結果, 左肩へ疼痛が放散する徴候である. 今回Kehr徴候から診断に至ったアメーバ肝膿瘍の1例を報告する.【症例】37歳男性【主訴】左肩痛【既往歴】HIV感染症, 赤痢アメーバ腸炎【現病歴】来院8日前に左鎖骨下から肩峰の鈍痛, 心窩部違和感を自覚した. 増悪寛解因子なし. 7日前に37℃台の発熱を生じ市販薬内服で改善せず, 4日前 38℃台へ上昇した. 左肩痛の持続に対し精査目的に当科外来を受診した.【身体所見】意識清明, 体温 36.5℃(解熱剤内服直後), 血圧 134/88 mmHg, 脈拍 77回/分, 呼吸数 18回/分, SpO2 99%(室内気). 腹部やや膨満, 鼓音あり, 圧痛なし, 深呼吸で左胸部に違和感あり. 肝脾腫なし, 肝叩打痛なし.【検査結果】WBC 15,000/μL (好中球 82.5%,リンパ球 10.1%,好酸球 1.1%), CRP 17.4 mg/dL, AST 38 U/L, ALT 84 U/L, ALP 149 U/L, γ-GT 186 U/L. 腹部エコー:肝左葉外側区に7cm×6cmの単胞性の低エコー領域あり.【経過】急性発症で機序がはっきりしない左前胸部痛, 肩痛であったが, 労作で増悪なく発熱を伴っており, 疼痛は鎖骨上神経支配領域に一致した. そのためKehr徴候を想起し, 腹腔内疾患を考慮することで腹部超音波所見から肝膿瘍を疑った. セフトリアキソン2g q24h点滴投与, メトロニダゾール500mg×3経口投与を開始した. CTガイド下経皮経肝ドレナージ施行し, アンチョビペースト状, 無臭の粘性液体を計190mL廃液し, PCR検査でEntamoeba histolyticaが陽性であった. 入院中メトロニダゾール内服を継続し連日用手的に排膿を行った. 第9病日施行の造影CT検査で膿瘍腔の縮小を確認しドレーン抜去, 第14病日に退院とした.【考察】本症例は左肩痛の性状からKehr徴候を想起することで腹部超音波検査を行い肝左葉の肝膿瘍と診断できた1例である. Kehr徴候は脾損傷で陽性となる報告が散見されるが, 肝膿瘍での報告例はない. 既往歴も考慮し起因菌として赤痢アメーバが推定でき迅速に加療開始ができた.【結語】左肩痛に対して既往や痛みの性状に注意しながら, 左横隔神経を刺激しうる疾患も鑑別として考慮すべきである.