私の医療面接方略
まずは笑顔や態度で患者と可能な限りラポールを形成する。自然体での会話が真の病態把握に必須だからである。この後、畳みかけるように行う閉鎖型質問対しての尋問感を最小限にするためにも、面接開始時のラポール形成は欠かすことができない。続いて開放型質問で得られる病歴情報からキーワードを抽出し、直ちに疾患や病態の仮説想起を試みる。仮説が想起され次第、患者の息継ぎを狙って感度または特異度の高い閉鎖型質問を投入し、仮説を検証していく。注意点は患者が問診に集中していない、あるいは医師を頼り切っていると、考えずにハイと答えてしまう誘導尋問になるのでイイエの質問を混ぜる工夫を施す。 仮説想起に必要なキーワードが得られない場合は、病歴から有症時の患者の生活を映像化してみる。患者になりきるレベルでイメージできればなお良い。例えば悪心・嘔吐・腹痛で2日間身悶えして食事も取れないという青年が、入浴だけは欠かさないと言った場合、患者になりきればそれが平均的なイメージから逸脱していることは容易に把握できるので、身悶えする症状が誇大表現なのか、このような状況での入浴が特異情報になる器質疾患なのかの二択となる。これに2日で体重激減という客観的情報が加わると、この例は入浴での症状緩和という特徴を持つ大麻悪阻に行き着く。逆に患者の話からイメージを形成できない場合は“曖昧な病歴”と判断することが可能となり、精神疾患や認知症のほかに、多彩な全身症状を呈する内分泌疾患や、錐体外路徴候のように言語化困難な症状を生じる疾患を考える。 この方略は診断のための医療面接となり、シンプルな器質疾患であれば問題ないが、多くの患者は生物・心理・社会的要因の組み合わせで症状が形成されており、患者の思いが診断や治療に甚大な影響を及ぼす。従って複雑な症例や面接開始時のラポール形成が難しい場合は患者の物語に焦点を当てる必要があり、私は時間の制約が厳しい外来でも短時間で患者自身を語らせ得るBATHE法などを適宜用いるように心掛けている。