睡眠障害の診断・治療
以前は眠れないということを主訴に患者が医療機関を訪れると、医師の多くは眠れないだけでは死なないので気にするなと答えていたと思う。しかし、睡眠医学が発達した現代では、その答えは間違っていると言わざるを得ない。精神生理性の原因が不眠症を生じさせているだけではなくて高血圧、糖尿病などが基盤にあるから眠れないということも近年明らかになっていている。それどころか、最近では不眠・睡眠障害により特に生活習慣病を中心とした疾患が生じることがわかってきている。高血圧、糖尿病、脂質代謝異常そして肥満は脳血管障害や循環器疾患を引き起こす。さらには、睡眠障害ががんや認知症などの危険因子であることも科学的な事実として立証されつつあるのである。しかし、その大きな誘因となっている睡眠障害の重要性には多くの医師は眼をむけていない。
一方、現代社会では、効率化を求めるあまり睡眠時間の短縮傾向が年とともにみられている。睡眠障害は、不眠という症状と単に思われがちであるが、実は睡眠障害自体がライフスタイルの変化や高齢化による生活習慣病であるともいえるのである。
では、この睡眠障害を第一線の臨床医である総合診療医がどのように診断してゆくのか。最も一般的な、いわゆる不眠症は睡眠障害国際分類第3版で、睡眠の機会が十分であるのにもかかわらず、入眠障害、頻回の覚醒、早朝覚醒のどれかがあり、一週間に3回、少なくとも3か月以上続く場合とされている。また、ここでいう不眠は他の睡眠覚醒障害、すなわちいわゆる睡眠時無呼吸などの原発性睡眠障害では説明されないものと厳密には定義されている。以上に基づき、睡眠障害の種類とその鑑別について言及してゆく。
治療については当然のことながら睡眠障害の種類に相応した対応が必要である。それを踏まえた上で、本講演では睡眠障害の非薬物治療、さらには薬物治療が必要な場合の睡眠導入剤、すなわち睡眠薬の最新の知識について述べる予定である。