[O-020] 免疫不全の背景がない70代男性が、慢性的な体重減少と前日からの発熱を認め、粟粒結核の診断となった症例
【背景】長期喫煙歴とCOPDの既往があるも、ほかに免疫不全をきたす既往歴はなし。【症例】70代、男性【主訴】発熱、体重減少【現病歴】受診1年前より慢性的な食思不振と体重減少を認め、他院にて精査されるも原因不明であった。1日前より発熱を認め当院へ救急搬送された。【所見】体温 38.6℃、酸素投与は要さずほかバイタルに特記なし。採血では炎症反応上昇と肝逸脱酵素の上昇に加え、白血球 1,680/μLと減少を認めた。胸腹部単純CTでは肺野に粒状影などを認めず、縦隔・腹腔内の多発リンパ節腫脹と胸水、腹水貯留を認めた。【経過】悪性腫瘍多発転移、あるいは悪性リンパ腫を考え、精査目的に入院とした。リンパ節・骨髄生検や腹水細胞診、上・下部消化管内視鏡、PET検査を行うも確定診断には至らなかった。徐々に酸素需要の増加が見られたが、入院9日目に酸素10Lの投与を要する急激な酸素化の悪化を認めたため、ICUへ緊急入室とした。入院12日目に腹膜生検を行い、術中の腹膜所見にて結核性腹膜炎が疑われたため喀痰塗抹・培養検査を行いつつ陰圧隔離開始とした。入院13日目には腹膜組織の蛍光法染色にて抗酸菌陽性となり、入院15日目には3回目の喀痰塗抹検査でも抗酸菌陽性となったため、粟粒結核(肺結核、結核性腹膜炎)の診断にて入院17日目に結核の入院治療が可能な病院へ転院した。【考察】粟粒結核は結核菌の血行性散布により2つ以上の臓器に病変を生じたものである。高齢者の増加により一度治癒した病変から生じる二次結核によるものが増え、また二次結核では緩徐に発症しうることが特徴として挙げられる。発症要因として高齢のみでほかに基礎疾患を持たない症例も多く、症状は多彩で診断の遅れにつながりやすいが、死亡率は20%以上といわれる。本症例では慢性的な体重減少として緩徐に肺結核が再燃し、最終的に結核性腹膜炎とARDSをきたしたものと考えた。【結語】高齢者における説明のつかない全身症状に遭遇した際は、たとえ免疫不全の背景がなくとも、結核を一度は鑑別に挙げることが極めて重要である。