[O-016] 難治性の吃逆で初発し、低Na血症の存在下でその鑑別に苦慮した超高齢発症視神経脊髄炎の一例
【背景】
視神経脊髄炎(NMO)は抗AQP4自己抗体によって生じる神経炎症性疾患であり、典型的には壮年期に視神経炎や脊髄炎で発症する。また、延髄最後野症候群(難治性の嘔気・嘔吐・吃逆)やSIADHなどを認めることもあるが、単一の初発症状としては稀である。NMOは高齢者でも発症することがあり、高齢発症例では非典型的な臨床表現型をとるため、その稀な有病率と相まって診断が困難になりやすい。
【症例】70代男性
【主訴】嘔気・嘔吐・吃逆
【病歴】
患者は10日間持続する難治性・薬剤抵抗性の嘔気・嘔吐・吃逆にて当院紹介となった。症状は食事摂取との関連性に乏しく、嘔吐もほとんど内容物を伴わないものであった。新規の低Na血症も認めたため入院となった。
【所見】
入院後の精査でSIADHによる低Na血症が症状の原因として疑われた。その後、左体幹・下肢の温痛覚障害が出現し、神経診察では腹壁反射の消失と左下肢腱反射の亢進を認めた。MRIでは脊髄と延髄最後野に異常信号が認められ、抗AQP4抗体の陽性化とあわせて超高齢発症視神経脊髄炎(very late-onset NMO; VLO-NMO)と診断された。
【経過】
ステロイドパルス療法を開始し、嘔気・嘔吐・吃逆は同日中に速やかに改善した。電解質異常も緩徐に補正された。神経症状は一部残存し、追加の治療目的で高次医療機関に転院となった。【考察】
NMOでは発症2週間以内の介入が予後を規定するため、今回のような非典型例においても迅速な診断が求められる。本例においては①高齢発症、②延髄最後野症状発症、③主訴を説明しうる低Na血症の存在、3点が診断困難性を高めていた。我々は後方視的に今回の症例を分析し、①は高齢化に伴う疫学的非典型例との遭遇率上昇の認識、②は消化器系との関連が乏しい嘔気・嘔吐・吃逆における延髄病変の想起、③はルーチンの神経診察で診断可能性を向上させられると考えた。【結語】
NMOの高齢バリアントや最後野症状初発例では診断困難に陥りやすいが早期介入が重要なため、難治性の吃逆を見た際には高齢であってもNMOを鑑別に挙げる必要がある。