[O-012] 可逆性脳梁膨大部病変(MERS)を伴ったオウム病の1例
【背景】可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎/脳症(clinically mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion: MERS)は各種ウイルス感染症やレジオネラ肺炎、低血糖、抗痙攣薬内服中の患者などで報告されており、原疾患は多岐にわたるが、原疾患に対する治療のみで可逆性の臨床経過を辿るとされる。【症例】53歳男性。【主訴】発熱、倒れていた。【現病歴】X年2月に会社に出勤せず、上司に判読困難なメールが届いたため同僚が自宅を訪問したところ、自宅で倒れている本人を発見した。発見時、発話は可能だったが、うまく言葉が出ない様子で呂律が回っておらず、動けないため救急搬送された。【所見】来院時、GCS E4V4M6の意識障害と40℃の発熱、低酸素血症を認め、神経診察では運動性失語や失算・失書、小脳失調を呈していた。血液検査ではCRPとCPK・肝逸脱酵素の上昇、低Na血症、血清フェリチンの上昇を認め、尿検査では尿蛋白・尿潜血を認めた。胸部単純CT検査では右肺上葉に大葉性肺炎を認めた。髄液所見から髄膜炎は否定的だった。頭部MRIの拡散強調画像で脳梁膨大部に高信号域を認め、同部位はADC mapで低信号域を呈しており、MERSが疑われた。【経過】入院後、高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)による呼吸管理と、非定型肺炎を念頭にアジスロマイシン・レボフロキサシンによる計2週間の抗菌薬治療を行なったところ、肺炎と神経症状の改善が得られ、第23病日に自宅退院となった。退院後に治療前後のペア血清でChlamydia psittaci IgG/IgMの陽転化を確認し、オウム病と血清診断した。鳥との接触歴は問診する限りでは認めなかった。【考察】オウム病はChlamydia psittaciが原因菌の呼吸器感染症であり、鳥からヒトへ感染する人畜共通感染症の一つである。比較的稀な疾患で2012年以降は年間10例以下の報告数となっているが、診断の難しさから過小評価されている可能性はある。文献検索した範囲でオウム病にMERSを伴った例はこれまでに報告されておらず、本症例はMERSの原因疾患としてオウム病を考慮する必要性を示した重要な症例であった。【結語】MERSを伴ったオウム病の1例を経験した。