泌尿器科専門医が総合診療の視点で考える排尿障害
【戦略名】OPQRSTアプローチの排尿障害への応用
【背景となる理論、着想など】
筆頭演者は泌尿器科医歴18年を有する総合診療医として排尿障害の相談を受けることが多い。排尿障害、とくに神経因性膀胱は、脳外科領域/神経疾患/脊椎疾患/代謝内分泌疾患など多彩な原疾患の結果であり、泌尿器科医であってもしばしば診断に難渋する。そこで本発表では、総合診療医が簡単かつ的確に排尿障害を診断する方法として、OPQRSTアプローチの排尿障害への応用を紹介する。頭文字OPQRST(Onset /Palliative /Provocative /Quality /Region /Severity /Symptoms /Time course)で構成される痛みの問診法であるが,あらゆる症状に適用できるとされる。排尿障害に応用する場合の要点としては、まず「原疾患」「排尿」「排便」の3者について聴取し、3者のOnset/Time courseが一致すれば神経因性膀胱が示唆され、「排尿」単独であれば下部尿路疾患が示唆される。
【利用できる具体的なケース】
考えうるすべての排尿障害に利用可能である。具体例①:78才男性。胆嚢炎で入院中に尿閉となった。排尿単独の症状であり前立腺肥大症が主因と思われた。きっかけとしてペンタゾジンが投与されていた。具体例②:前立腺肥大症の既往のある89才男性。帯状疱疹(S1領域)に罹患し、その後に尿閉となった。排便困難も伴っており、神経因性膀胱(帯状疱疹に由来)と判断した。具体例③:80才女性。腰痛と発熱と排尿困難をみとめた。前医で「腎盂腎炎」として抗生剤加療とともにαブロッカーを開始されていたが、経過が腎盂腎炎にあわないとして当院紹介となった。当院受診時には歩行困難を生じており腰椎MRIで化膿性脊椎炎/傍椎体膿瘍の診断に至った。詳細な病歴聴取で便失禁も判明し、膀胱直腸障害として迅速な整形外科手術が施行された。
今回取り上げた排尿障害に限らず各科領域の診療では、一見診断が難しく見える際にも総合診療の手法を用いれば実は容易に解決できることは多々あろう。各科領域に介入する際の参考にしていただければ幸いである。