Immunomimetic Strategy of Diagnosis
【戦略名】Immunomimetic Strategy of Diagnosis
【背景となる理論、または着想など】
免疫系は生物が長い歴史の中で獲得した"最適解を探す"ためのシステムである。試行錯誤を繰り返し最適な免疫応答を確立するそれは、診断推論の思考過程と類似している。その免疫系をモデルに思考体型を構築し、診断理論への応用を目指したのが本戦略である。今回は免疫系の概念のうち、Positive-negative selection (PNS)、Class switching (CS)、Somatic hypermutation (SHM)の3つを模倣した診断戦略をそれぞれ提示する。
【利用できる具体的なケース】
PNSは外敵特異的な免疫細胞を選び出す過程であり、その方法論はアイディアの選別においても強大な力を発揮しうる。診断のPNSでは、1段階目では症候の和集合を説明しうる鑑別を全て採用し、2段階目ではより適切に積集合を説明しているものを再選する。言い換えれば感度→特異度と重心をシフトさせていく思考法である。
CSは免疫応答を状況に応じて最適化させる過程である。診断においても初見の疾患に対する思考過程と2回目以降でのそれでは迅速性や正確性を異にしていると実感することは多く、また、それはsettingに応じて切り替わるものである。このように診断力の成熟過程でもCSと似た変容が生じている。応用として、稀な疾患に出会う前のcase-basedの訓練はワクチンのように遭遇時の診断可能性を高める。また、一般外来の経験を救急ならどうかと省察することはIgAの如く状況特異性の高い能力形成を促す。
SHMは、免疫応答後にB細胞が増殖する際、敢えて自らの体細胞変異の頻度を高めることで抗体を多様化し、その中から適合性の高いものを選択的に増やしていく免疫戦略である。診断においてもこの"意図的なノイズ"は効力を発揮し、「もし免疫不全を背景としていたら」「もし高齢でなく若年だったら」と仮定のノイズを入れながら推論することで隠れた背景を見つけ、稀な疫学的状況の診断にも寄与する。また、それが現実には異なっていても一つの症例から複数の仮想症例で経験を積むことができる。