わたしのオリジナル診断戦略:XYZ軸を用いた肝胆道疾患の鑑別診断
【背景】肝胆道疾患の鑑別診断において、血液検査は重要な役割を果たす。しかし、必ずしもその解釈が正しくなされておらず、無症状の検査値異常では無駄な検査オーダーが後を絶たない。そこで、肝臓専門医が無意識に利用している「XYZ軸を用いた肝胆道疾患の鑑別診断」を紹介する。まず、症状および発症様式から、急性疾患と慢性疾患を区別し、原因を類推した上で身体診察を行っている。続いて、血液検査では肝逸脱酵素(X軸:AST, ALT)、胆道系酵素(Y軸:ALP, GGT)、肝線維化・肝予備能(Z軸:血小板数、Child-Pugh分類の評価項目)に注目している。
【具体例】① 50歳男性の健診異常(AST 50 IU/L, ALT 80 IU/L, GGT 40 IU/L)。肝細胞障害パターンであり、ウイルス性(HBV, HCV)や脂肪肝を想起して血液検査と腹部エコーを追加する。しかし、胆汁鬱滞パターンではなく、抗ミトコンドリア抗体(AMA)やMRCPを考慮する必要はない。② 50歳女性では自己免疫性肝炎(AIH)を除外する目的でIgG, 抗核抗体を確認する。③ 70歳女性、倦怠感(AST 20 IU/L, ALT 25 IU/L, ALP 300 IU/L, GGT 500 IU/L)。胆汁鬱滞パターンであり、まずは腹部エコーで悪性腫瘍を除外する。占拠性病変が否定されればAMAやMRCPを確認する。肝細胞障害パターンではなく、ウイルス性やAIHを想起することはない。①〜③のいずれも血小板数で簡便に肝線維化の評価を行い、適宜Albumin, Bilirubin, PT活性でChild-Pugh分類を評価する。ただし、NASHによる隠れ肝硬変の診断は容易ではなく、過去の体重を含めた入念な病歴聴取が求められる。なお、様々なパターンを取り、頻度の高い脂肪肝と薬物性肝障害は常に鑑別にあげている。当日は、本学会認定医として全身性疾患(特に心疾患、血液疾患)との鑑別ポイントについて例示し、専門医へ紹介すべきタイミングや用語として誤用されている肝機能障害について肝臓専門医として言及する。【まとめ】XYZ軸を認識することにより、迅速に肝胆道疾患の鑑別診断を進めることができる。その結果、無駄な検査のオーダーが減り、医療経済に貢献できる。