[P-003] 意識障害の原因検索の中でセフトリアキソンによる抗菌薬関連脳症が疑われた1例
【背景】セフトリアキソン(CTRX)は本邦で頻用されている抗菌薬である.今回CTRXによる抗菌薬関連脳症を発症した症例を経験したので報告する.【症例】89歳,男性【主訴】発熱【病歴】×年8月23日に自宅で転倒した.8月24日に38.3℃の発熱を認め,8月25日に往診医より当院を紹介受診し,精査の結果,尿路感染症と仙骨部褥瘡の感染と判断し入院した.【既往歴】慢性腎臓病,慢性心不全,心房細動,陳旧性脳梗塞,認知症,前立腺肥大症【身体所見】JCSⅠ-3,BT37.9℃,HR110/min,BP121/83mmHg,SpO296%(室内気),肺音清,心音純.腹部圧痛なし.仙骨部に1.5cm×2cmの潰瘍あり.【検査所見】TP 7.4g/dL, Alb 2.8g/dL, AST 43IU/L, ALT 22IU/L, ALP 201IU/L, γGTP 19IU/L, BUN 94.7mg/dl, Cr 6.21mg/dl, Na146mEq/L,K3.5mEq/L,Cl105mEq/L,CRP7.75mg/dL,WBC9680/μL,Hb12.4g/dL,Plt239000/μL,尿混濁2+,WBC3+,白血球数100以上/HPF,胸部CTで肺炎像なし.SARS-CoV-2抗原陰性,PCR陰性.【経過】尿路感染症と褥瘡感染に対して,CTRX2gを投与した.転倒を契機に経口摂取量が低下し,脱水による急性腎障害として補液を開始した.血液検査上,炎症反応と腎機能も徐々に改善した.8月30日の夕方に意識障害をきたし,意味不明な発語を認めた.原因検索として,甲状腺,副腎皮質ホルモン,NH3,膠原病関連の自己抗体,血液ガス分析,頭部-骨盤部CT,頭部MRIを実施し,Na155mEq/Lの高ナトリウム血症を認めた.補液をブドウ糖液と維持液に変更しNa値は低下したが意識障害は遷延した.ここで原因として薬剤性を想起した.CTRXは高度腎障害患者において精神神経症状の出現が多数報告されている.本症例もCTRXによる抗菌薬関連脳症を疑い,9月2日に投与を中止した.しかし意識障害は改善せず,容体は進行し,9月9日に死亡退院した.【考察】2018年の医薬品医療機器総合機構の報告では直近3年度に報告されたCTRXの国内副作用症例として,精神神経症状関連は19例であり,本症例は稀な症例であると考えた.【結語】抗菌薬投与下の高齢者や慢性腎臓病患者の意識障害の原因として,抗菌薬関連脳症も鑑別に挙げる必要がある.