[P-012] 非鎮静下の下部消化管内視鏡検査中にCO2ナルコーシスとなり、筋萎縮性側索硬化症と診断された1例
【背景】全身倦怠感、体重減少を訴える患者に対して、総合診療医が初療を担当する機会は多く、その鑑別診断は多岐にわたる。【症例】86歳、男性
【主訴】全身倦怠感、体重減少
【病歴】約6ヶ月からの全身倦怠感、食欲不振、約10 kgの体重減少を主訴に当院紹介受診した。悪性腫瘍が疑われ、上部消化管内視鏡検査、腹部造影CTが施行されたが、明らかな異常を指摘されず、下部消化管内視鏡検査など更なる精査目的に当科紹介、入院となった。【所見】意識清明、血圧 172/102 mmHg、脈拍 102回/分、呼吸数 15回/分、SpO2 98%(室内気)。心音に異常なく、呼吸音でラ音は認められず。BMI 18.8 kg/m2、るい痩、四肢の筋萎縮あり。血液検査で炎症反応上昇や逸脱酵素は認められなかった。【経過】入院当日、非鎮静下で下部消化管内視鏡検査が施行された。検査終了時に意識レベル低下しており、動脈血液ガス分析でpH 7.119、PaCO2 77.5mmHgよりCO2ナルコーシスと診断された。非侵襲的陽圧換気治療により同日中に意識清明となった。胸部CTで呼吸不全の原因となりうる病変は認められず、呼吸筋麻痺が疑われ神経内科を紹介受診。神経学的診察、針筋電図検査などより重症筋無力症などの他疾患を除外の上、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)と診断された。気管切開、侵襲的人工呼吸器治療は希望されず、入院20日目に永眠された。【考察・結語】未診断のALS患者の中には、全身倦怠感、体重減少などを主訴とし、総合診療科を受診する例がある。ALSの中には、四肢の筋力は比較的保たれているものの、呼吸筋麻痺に伴う換気不全から急激にⅡ型呼吸不全を発症する例があり、本症の様に、非鎮静下の消化管内視鏡検査もその契機となりうる。全身倦怠感、体重減少を訴える症例の診療においては、鑑別としてALSを挙げ、急激な呼吸不全を起こしうる可能性を考慮する必要がある。