[P-013] 診断エラーを回避し得た上腸間膜動脈解離の一例
【背景】急性腹症の鑑別診断において、大動脈解離に比して上腸間膜動脈解離の確認は忘れられがちである。この症例発表の目標は急性腹症の鑑別診断における上腸間膜動脈解離の認識の向上にある。
【症例】特記すべき既往歴のない42歳男性が腹痛、吐き気、嘔吐、下痢を訴え当院救急外来へ来院した。
【病歴】持続的な“過去に経験したことがない”ほどの腹痛が突然出現し、その後複数回の嘔吐と下痢を認め、発症から2時間後に当院へwalk-inで来院した。
【所見】バイタルサインは血圧が154/105mmHgと高いこと以外は異常を認めず、歩行は疼痛のため困難であった。身体所見では心窩部から臍部周囲に腹膜刺激徴候を認めた。
【経過】嘔吐と下痢を認めていたことから当初急性胃腸炎が疑われた。アセトアミノフェン投与では改善せず、ペンタゾシン投与で疼痛改善が得られ帰宅判断となりそうであったが、当初腹膜刺激徴候が身体所見で認められたことなどから、腹部造影CT検査に至った。消化器内科への相談を経て上腸間膜動脈解離の診断となった。保存的治療、血圧コントロール目的で入院となった。
【考察】指導医との振り返りの中で、下記のような内容が確認された。急性胃腸炎が疑われたが、突然発症の腹痛が先行しており、オピオイド投与が必要であったことも、急性胃腸炎としては妥当性を欠く病歴経過であった。また、鑑別診断として上腸間膜動脈解離については認識が浅く、読影について至らない点があった。
【結語】上腸間膜動脈解離が本例のように嘔吐・下痢などの腸炎症状を伴って来院された場合、急性胃腸炎という暫定診断のもと、帰宅判断となりうる危険性がある。血管病変を疑う場合、腹膜炎を疑う場合には造影CT検査をためらわずに行い、上腸間膜動脈解離を腹痛の鑑別診断として認識し、画像を注意深く評価する必要がある。