[P-019] Vibrio vulnificusによる壊死性筋膜炎を呈した透析患者の一例
【背景】Vibrio vulnificusは好塩性のグラム陰性桿菌であり、海水と淡水が混じる汽水域に生存している。感染経路として、汽水域でとれる魚介類の摂取による経口感染もしくは海水から直接皮膚の創部から感染する経皮感染が挙げられる。肝硬変などの肝疾患や免疫不全患者では重症化し、敗血症に至ると致死率が高いため早急な対応が必要となる。【症例】80歳男性
【主訴】左下肢痛
【病歴】入院前日から倦怠感が出現し、入院当日に38℃台の発熱と左下肢痛を認めたために救急要請した。普段歩行可能でデイサービスを利用しており、その他外出はしていない。外傷歴なく、悪寒戦慄もなし。週に3日血液透析を行っている。
【所見】体温38.0℃, 血圧146/80mmHg, 心拍数92回/分 整, 呼吸数16回/分, SpO2 96%(室内気), 眼球結膜点状出血なし, Osler結節なし, 心音純 雑音なし, 左膝関節から下腿にかけて境界不明瞭な発赤・熱感・疼痛あり
血液検査:CRP 0.7mg/dL, Na 139mmol/L, K 4.9mmol/L, CK U/L, 白血球 13600個/μL 下肢CT検査:左下腿伸側の皮下組織の脂肪織濃度上昇あり培養:血液培養2セットと組織培養でVibrio vulnificus
【経過】発熱に加え左膝関節から下腿伸側にかけて境界不明瞭な発赤や熱感、疼痛を認め蜂窩織炎としてセファゾリンで治療を開始した。発赤部位をマーキングしていたが、第2病日には下腿伸側への発赤の拡大に加え、紫斑を伴っていたことやCK上昇もあり壊死性筋膜炎を疑い整形外科にコンサルト。血液培養でVibrio vulnificusが検出され、緊急で左大腿部での下肢切断術が施行された。セフトリアキソンとミノサイクリンで10日間治療を行い、血液培養の陰性化を確認している。
【考察】Vibrio vulnificusは、健常者では肝臓内のKupffer細胞によるクリアランス機能のため重症化することは少ないが、肝硬変など肝疾患が背景にあるとクリアランス機能の低下やシャント血流を介して敗血症など重症化することが知られている。今回のように肝疾患を有さず敗血症や壊死性筋膜炎に至った症例の報告は少なく、文献的考察を交えて報告する。