[P-020] 遂行機能障害を呈した巨細胞性動脈炎の一例
【背景】巨細胞性動脈炎は大動脈とその分岐に生じる肉芽腫性血管炎であり、炎症による全身症状と血管狭窄による臓器の虚血症状を引き起こす。一過性脳虚血発作や脳梗塞を認めることもあるが椎骨脳底動脈の障害が多く、遂行機能障害など高次機能障害を呈することは稀である。
【症例】71歳 女性
【主訴】遂行機能障害
【病歴】入院3ヵ月前から全身倦怠感や背部痛が出現し、アセトアミノフェンを頓用で内服していた。一度症状は改善したが、次第に乾性咳嗽や咽頭痛、発熱も出現していた。入院当日、遂行機能障害を認め神経内科に入院となった。両側の下腿外側の冷感も自覚していた。顎跛行や視野障害、腹部症状は認めない。
【所見】体温37.4℃, 血圧102/77mmHg, 心拍数92回/分, 呼吸数16回/分, SpO2 97%(室内気), 側頭動脈の圧痛なし, carotidyniaなし, 心雑音なし, 皮疹なし
血液検査:CRP10.5mg/dL, フェリチン489ng/mL, 白血球8900個/μL, 赤沈>100mm
頭部MRI:異常信号や血管狭窄なし
造影CT:胸部大動脈から総腸骨動脈にかけて動脈壁肥厚や周囲の脂肪織濃度上昇あり
FDG-PET:両側頸動脈、鎖骨下動脈、腋窩動脈、上行大動脈から両側総腸骨動脈壁に連続する集積亢進あり
【経過】慢性経過の発熱に加え気道症状や下肢の冷感など多彩な症状があり、造影CTで大動脈の壁肥厚や周囲の脂肪織濃度上昇を認め巨細胞性動脈炎が疑われた。FDG-PETでも頸部から腸骨動脈にかけて集積亢進を認めたが、側頭動脈の集積はなくLarge-vessel型巨細胞性動脈炎の診断となった。遂行機能障害に関しては脳波や頭部MRI、髄液検査など行ったが有意な所見はなく、治療開始後は症状消失している。
【考察】巨細胞性動脈炎は高齢者に多く発症し、全身症状を呈する。本症例のように乾性咳嗽や咽頭痛など気道症状は非典型ではあるが初発症状となることも報告されている。また、遂行機能障害など高次機能障害は前頭葉連合野の障害であり、巨細胞性動脈炎の症状としては稀である。今回、巨細胞性動脈炎の経過中に遂行機能障害を呈した症例を経験したため報告する。