[P-021] COVID-19罹患後に発症したと考えられた抗ARS抗体症候群の1例
【症例】50歳代・男性
【主訴】発熱、呼吸困難
【既往歴】脂質異常症、高尿酸血症
【生活歴】喫煙歴:20本/日
【現病歴】
X年7月末に発熱、倦怠感が出現し、近医でSARS-CoV-2 PCR陽性が判明した。発症後1週間程度で呼吸困難が出現し、低酸素血症も認められたため、発症9日目に当院へ入院となった。
【身体所見】
体温 38.1 ℃、血圧 122/71 mmHg、脈拍数 103/分、呼吸数 28回/分、SpO2 94%(酸素4L/分投与下)、心音に異常なし、両肺背側でfine crackleを聴取、皮疹なし
【検査結果】
WBC 5390/μL(好中球 84.1%, リンパ球 12.7%), PLT 13.6万/μL, D-dimer ≦0.5μg/mL, LDH 473U/L, CK 1835 U/L, CRP 17.99mg/dL, CTで両肺に広範なすりガラス影が認められた。
【経過】
抗ウイルス薬、ステロイド、抗凝固療法を開始したが、発症10日目に人工呼吸器管理となった。その後、全身状態は改善したが、呼吸不全のみが遷延し、発症2か月後に在宅酸素療法(HOT)を導入した上で退院となった。退院後も呼吸不全が遷延したため、その他の原因検索として各種自己抗体検査を追加したところ、抗ARS抗体(後にPL-12抗体と同定)が陽性と判明した。当院入院時点の保存検体は陰性であった。その後、緩徐に呼吸状態は改善したため、ステロイドの投与は行わずに経過観察し、発症8か月後でHOTを離脱した。
【考察】
入院後の抗ARS抗体陽転化時期については不明であり、経過中に皮膚症状や筋症状は認められなかったが、COVID-19肺炎の経過中に抗ARS抗体症候群を合併し呼吸不全の遷延化をきたした可能性が考えられた。COVID-19肺炎とそれ以外の肺炎の観察研究において、COVID-19群の自己抗体発現率が高かったとの報告や、COVID-19経過中に何らかの自己抗体を発現した群の方が発現しない群よりも生命予後が不良であったとの報告があり、SARS-CoV-2自体が自己免疫疾患を惹起しやすい可能性が示唆されている。
【結語】
COVID-19の発症によって抗ARS抗体症候群などの自己免疫疾患関連の間質性肺炎を合併することがあるため、呼吸不全が遷延する場合には留意を要する。