[P-033] 腎機能低下のない高齢女性に生じたアシクロビル脳症の1例
【症例】71歳女性【主訴】意識障害・構音障害【病歴】当院受診1ヶ月前の定期採血ではBUN 18.5mg/dL,Cre 0.69mg/dL,eGFR 63.3 mL/分と正常だった.受診2週間前から右大腿部に疼痛を自覚し,前医で帯状疱疹と診断され,バラシクロビル3000mg/日を処方された.加療開始3日後にふらつきと呂律困難が出現し,前医の血液検査でBUN 50mg/dL,Cre 5.55mg/dLであり,脱水と診断され入院した.その後構音障害が出現し,利尿薬を投与されるも乏尿が持続したため当院へ搬送された.【所見】GCS E3V3M6,脈拍数 118/分,血圧 189/84mmHg,呼吸数 16/分,SpO2 96%(室内気),体温 36.6℃,右下腿に一部痂皮化を伴う水疱あり,構音障害あり,幻視あり,項部硬直なし.WBC 9100/μL,RBC 394万/μL,Hb 11.6mg/dL,Plt 18万/μL,BUN 72.7mg/dL,Cre 7.67mg/dL,eGFR 4.54mL/分,CRP 4.42mg/dL【経過】CT・MRIを撮影したが異常所見はなく,バラシクロビル内服による急性腎障害とアシクロビル脳症を疑った.バラシクロビル中止の上,第1病日から持続的血液濾過透析を開始した.第2病日にはBUN 36.2mg/dL,Cre 3.10mg/dLと改善を認め,意識障害,構音障害,幻視も消失したため透析を終了した.その後も腎機能は徐々に改善し,第7病日にはBUN 20.6mg/dL,Cre 0.78mg/dLと入院前とほぼ同じ腎機能まで改善した.後日判明したアシクロビルの血中濃度は 57.5μg/mL(推奨トラフ値 0.8-1.6μg/mL)だった.【考察】アシクロビル脳症は,構音障害,振戦,幻視,幻聴,錯乱などの症状を伴う意識障害を来すという報告があり,本例でも構音障害,幻視,錯乱が認められた. 腎機能が正常であってもアシクロビル脳症を来した症例が本邦でも報告されており,特に高齢者に多いという報告がある.本例は高齢であり,腎尿細管でアシクロビル濃度が溶解度を超えたため結晶化し,尿細管閉塞に伴う腎後性腎障害を起こしたと考えられる.【結語】アシクロビル投与量決定のために治療開始前の腎機能を確認する必要があるが,腎機能に関わらず神経症状の出現には注意深く経過観察することが重要と考えられる.