[P-063] 原因不明のショックと乳酸アシドーシスに対してビタミンB1を投与し救命した一例
【背景】
ビタミンB1欠乏は細胞内のエネルギー産生の重要な補酵素で欠乏により高拍出性心不全、Wernicke脳症、乳酸アシドーシスを引き起こす重篤な疾患ではあるが一方で現代では頻度が少なくなっており,鑑別の上がりにくい可能性のある疾患である。【症例】55歳 男性
【主訴】全身倦怠感
【病歴】急性発症1型糖尿病でインスリン治療中。受診2週間前から全身倦怠感が出現、受診1週間前に内科外来を受診しバセドウ病の診断となりメルカゾール内服が開始されていた。受診当日も倦怠感が強く外来を予約外受診、その際血圧68/41mmHg、脈拍100bpmであったため緊急入院となった。
【所見】血圧68/41mmHg、脈拍100bpm、SpO2 99%(RA)、体温36.7℃、呼吸数20回/分、意識E4V5M6。動脈血液ガス分析:pH7.252、pCO2 23.9mmHg、HCO3- 10.5mmol/L、Lac13.4mmol/L。心エコー:EF53%、明らかな壁運動異常なし、IVC1.9㎝。胸部X線:心胸郭比67%【経過】
食思不振・脱水による循環血漿量減少性ショックとして輸液負荷を行ったが循環不全は改善せず入院3日目にICU入室となり,救急科に相談された。ショックの原因は判明せず、高用量昇圧剤も要する状態であったため,乳酸アシドーシスに対してビタミンB1大量投与を行ったところ、速やかに昇圧薬の減量とLacの低下がみられた。入院4日目に昇圧薬はすべて終了でき入院9日目にICUを退室となった。ビタミン投与前の血中ビタミンB1濃度は1.0μg/dlであった
【考察】
本症例ではショック、乳酸アシドーシスの原因が判然としない状況であったが診断的治療としてビタミンB1を行ったことで患者を救命することができた。原因不明の乳酸アシドーシスの原因としてビタミンB1欠乏を鑑別に挙げることが大切であるが、甲状腺機能異常やⅠ型糖尿病が背景にあったことからアンカリングバイアスなど様々な診断エラーが関与した可能性が考えられた。
【結語】
原因不明のショックと乳酸アシドーシスに対してビタミンB1を投与し救命した一例を経験した。