[P-066] メンタルシミュレーションが実践に役立った五苓散が著効した頭痛の一例
【背景】愛媛大学医学部附属病院の臨床研修プログラムでは、臨床推論を中心とした横断的勉強会(研修医による研修医のための勉強会:KKB)が毎週開催され、研修医同士で症例を共有しながらメンタルシミュレーション(思考のトレーニング)を実践している。KKBでの学びが救急外来で役立った症例について報告する。【症例】20代、女性。【主訴】頭痛。【病歴】今朝より動作時に増強する後頭部痛が出現し、終日持続するため、同居する同年代女性に連れられて夜間救急外来を受診。家族歴に特記すべき事項なし。自閉症スペクトラムのため内服加療中。機会飲酒はするが、喫煙歴はない。【所見】JCS 0, BT36.5℃, BP129/89mmHg, HR101/min, 外傷痕や四肢麻痺なし。【経過】当初、患者は多くを語ろうとしなかったが、丁寧な病歴聴取により、2日前の深夜に自宅のベランダで首を吊ろうとした際に、同居人が気づき頭部を殴打して制止していたことが判明した。さらには、頭痛持ちであり、「雨の日の前日」の頭痛であることを聴取することができた。実際に翌日の天気予報を確認すると雨であった。ちょうど2週間前に開催されたKKB特別企画「救急・急性期に使える漢方治療」に参加し、漢方薬のイメージとは裏腹に「雨の日の前日」の頭痛に対して五苓散の即効性について学んだばかりであった。頭部〜頸部CTで異常所見のないことを確認し、待合室で即座に五苓散1包を内服してもらった。10分後には痛みが改善したため、その場での追加内服を促すことなく帰宅。自殺企図に関してはかかりつけ精神科医の受診を早めるように勧めた。【考察】気圧低下時には脳血流が増加するため相対的に脳浮腫の状態となるが、AQP4阻害を介した水分移動の抑制により、五苓散は「雨の日の前日」の頭痛に対して効果を示す。【まとめ】研修医として、患者の心理に配慮しながら丁寧に病歴聴取を行うことの重要性を学ぶとともに、日々のメンタルシミュレーションが実践に役立つことを認識でき、今後も積極的に勉強会に参加したいと思えた症例を経験した。