ダイバーシティ&インクルージョンと医療
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の重要性が注目されている。なぜ組織にとってD&Iは重要なのだろうか。ダイバーシティ(多様性)の重要性が注目されるようになったのは特にビジネスと自然科学の分野であり、ビジネスでは権利としての多様性の重視という考え方から経営戦略として多様性を活用する方向へ変換されている。D&Iを推進すると組織はより創造性、問題解決能力が上昇し、人材獲得にも有利とされ、我々の組織でもD&Iを意識することは重要である。一方、働き方改革が2024年から医師にも適用される。医師は従来長時間労働で現場を支えてきたが、これからはより良い医療の提供と医療者自身のwell-beingの両立を目指す必要がある。働き方改革を実践するにはより多くの人数で現場を支えることが必要であり、ライフイベントに関わらず働き続けられる環境の整備が急務である。このことは、多様な人材が現場で活躍することを意味しており、まさにD&Iの推進と一致する方向性である。岡山大学病院ではライフイベント等でフルタイム勤務が難しい医師が働き続けるためのオーダーメイドの柔軟な勤務体制を2008年より導入し、制度利用者はのべ160人を超えている。制度利用者のほとんどが女性であるが、最近では男性の利用も少しずつ増えており、性別にかかわらず柔軟な働き方が必要とされていることが認識される。我々は、制度導入3年後と8年後に職場の上司・同僚に対して意識調査を行ったが、柔軟な働き方を可能とする制度は、制度利用者にとって有用であるのみならず、職場にとって有用であること、この制度が若手のリクルートに有用である、といった項目が有意に上昇している結果となった。多様な働き方の人材が現場で活躍することは、職場にとって有用であるという認識は職場の意識変容が起こったと考えられ、D&Iの推進に繋がった事例と考えられる。
ダイバーシティを考えるとき、性別、人種などだけでなく、信条や働き方などの深層のダイバーシティも重要である。組織の中で互いに異なる人同士が真に認め合い尊重しあうためには深い部分の多様性を互いに理解することが必須であり、そのためのコミュニケーションは欠かせない。人数が少なくともD&Iの進んだ組織は魅力的であり生産的でもある。今後我々はそれぞれの場所でより良い医療と医療者のwell-beingの両立ができるしなやかな組織を目指したい。