認知症の人と家族に今できる限りのこと―鑑別診断、治療、ケア、そして予防―
認知症の人は増加の一途を辿り、我が国では2025年に700万人を超え、高齢者の5人に一人が認知症になると予測されている。2004年に「痴呆症」から「認知症」に呼称が変更され、1997年に介護保険法の成立、2000年から介護保険制度が始まり、先達により整備されてきた。このような変遷により、認知症のうち最多のアルツハイマー病(Alzheimer’s disease: AD)は、年を重ねれば誰でもなりうる、ありふれた疾患と理解されるに至り、認知症診療にますます総合診療医の力が必要とされている。
認知症への取り組みには、薬物療法、ケアなどの非薬物療法、家族・介護者への対応が必須である。
高齢者は転倒・骨折、排尿障害、脱水・熱中症、摂食障害など多様な症候や疾患を抱えているため、“木をみるのではなく森をみるような”包括的な医療が望まれるとされる。
多因子病であるADや全身の自律神経に影響を及ぼすレビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies: DLB)は、かかりつけ医が傾聴とともに全身管理をする必要がある。
認知症診断は、問診や全身・神経診察、画像検査を行い、一つ一つ丁寧に除外診断を行っていく。慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症、薬剤性など「治療可能な認知症」の他、少数ではあるが、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、プリオン病や2017年認知症疾患診療ガイドラインに追記され、ADとの合併もあるてんかんなど専門的な診断を要する疾患もある。
またケアに関しては、認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)は、その根底に不安感があるとされ、認知症の人の感情を理解することは肝要である。
2019年6月に「認知症施策推進大綱」が発表され、認知症の人との「共生」と認知症の発症を遅らせる、認知症になっても進行を遅らせる「予防」を車の両輪とすることが明記されている。
予防には、フレイルやサルコペニア、生活習慣病、骨折など多岐にわたる因子が関与する。
今回、記憶障害があるが、認知症と健常者のはざまで、まだ日常生活に支障をきたしていない状態である軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment: MCI)に対する試みを紹介する。