医療・医学教育×アート~総合診療での可能性~
「医学はサイエンスに基礎づけられたアートである」と言われて久しいが、日本の医学教育において、サイエンス分野の教育に比べ、アート分野の教育が十分に実践されているとは言い難い。医学あるいは医療におけるアートの定義は様々であるが、米国の医学生を対象に行った調査では、音楽、文学、演劇、ビジュアルアートなどの人文学に接する機会の多い医学生の方が、接する機会の少ない医学生と比べ、共感性、感情評価、自己効力感が良好であったことが報告されている。また、2021年のシステマティック・レビューでは、ビジュアルアートを使った医学教育で、医学生の観察力、共感性、ウェルネス/レジリエンス、不確実性に対する耐性、文化的感受性、協調性の6つが涵養されることが報告されている。日本では広まっていないMedical Humanities教育は、非人間的な医療実践、および医学生や医療者の非人間化を克服するために、医学教育の中で行われる人文学科目による価値教育として、欧米を中心に世界各国で広がっている。医学的にも、非医学的にも、多様で複雑な問題を抱えた患者さんの多い総合診療は、不確実性にみちた領域であり、ウェルネス/レジリエンス、不確実性に対する耐性などの涵養は重要であり、また総合診療の臨床においても人文学の視点は今後ますます大切になってくると思われる。
本講演では、岡山大学での医学生、また医療者を対象にしたビジュアルアートを用いた教育実践を紹介しつつ、これまでの関連する先行研究による知見を概説し、総合診療科での医学教育にどのように利用できるか、また臨床現場で働く医師への活用として考えられる未来についても触れる。