血小板減少と凝固異常を伴った非典型的な成人のIgA血管炎の一例
【背景】IgA血管炎(IgAV)は、紫斑、関節炎、腹痛、腎炎を特徴とする疾患で、成人の発症率は5人/10万人と非常に低い。【症例】22歳、男性【主訴】腹痛、下痢【病歴】当院入院の10日前に腹痛と下痢を認め、急速に腎機能が増悪したため当院の救急部へ紹介された。持続的腎代替療法とセフトリアキソンの投与が行われたが、腹痛や腎機能が改善せず、原因精査のため当科へ転科した。【所見】転科時、腹部の膨隆、左上腹部と側腹部の圧痛、両側手掌・足背・足底の硬結を触れる紫斑を認めた。血液検査ではWBC 25,900/µL、PLT 11.1万/µL、FDP 51.6 µg/mL、D-dimer 22.0 µg/mL、BUN 60.6 mg/dL、Cre 4.8 mg/dL、CRP 12.6 mg/dL、IgA 312 mg/dLであり、抗核抗体やPR3-およびMPO-ANCAは陰性で、尿検査で尿潜血と尿蛋白を認めた。腹部造影CTでは十二指腸から上行結腸にかけての浮腫と中等量の腹水を認めた。上部消化管内視鏡検査では十二指腸に地図状潰瘍を、同部位の組織では白血球浸潤を伴う壊死性潰瘍を認めた。紫斑の組織では真皮の血管周囲に炎症性細胞浸潤とフィブリン沈着および赤血球の血管外漏出を認め、腎組織の蛍光抗体法ではメサンギウム領域にIgAとC3の沈着を認めた。【経過】血管炎を疑い、皮膚と十二指腸の生検後直ちにメチルプレドニゾロン500mg/dayを投与した。腹痛や腸管浮腫および腹水は著明に改善し、腎生検よりIgAVと確定診断した。入院42日目には血液透析を離脱し、プレドニゾロン30mgに変更の上、61日目に退院した。【考察】本症例は成人の血小板数減少と凝固障害を伴ったIgAVであり、同様の報告は我々の知る限り4例しかなく、非常に稀である。このような症例で、皮膚や腸管の生検で診断できない場合、確定診断や予後予測に必要な腎生検が躊躇される可能性がある。しかし、ステロイドによる腎病理所見への影響は乏しいとも報告されており、ステロイド投与による血小板数や凝固障害の改善後に腎生検を行うことも選択肢になりうる。【結語】血小板減少や凝固障害を伴ったIgAVでは、ステロイド投与後でも腎生検を行うべきである。