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2月19日 (日)

プログラム

抄録





空洞ー胸腔シャント由来の大量胸水貯留によりCO2ナルコーシスを来した一例


【背景】胸水貯留への初期対応と原因検索は病院総合診療医の重要な業務の一つである。空洞ー胸腔シャント由来の大量胸水貯留によりCO2ナルコーシスを来した一例を経験したので報告する。【症例】67歳男性【既往歴】外傷性脊髄空洞症(26歳時)【現病歴】受診当日に腹痛を訴えて救急要請。かかりつけ医を受診したが、意識障害、低酸素血症、左大量胸水を認め当院へ搬送となった。【現症】JCS II-10、呼吸24/分、SpO2 98% (6L/分 酸素マスク)、血圧107/86 mmHg、脈拍79/分(整)、左呼吸音減弱【検査所見】胸部CTで左大量胸水貯留、左胸腔に空洞ー胸腔シャント先端、白血球10,00/μL (好中球92.8%)、Hb10.2g/dL、Ht 30.4%、血小板25.7万 /μL、血清Na 116 mEq/L、TP 6.8 g/dL、Alb 3.0 g/dL、LDH 142 IU/L、動脈血液ガス分析:pH 7.17、pCO2 93.4 mmHg、PO2 154 mmHg、HCO3- 32.6 mEq/L【経過】大量胸水貯留によるCO2ナルコーシスと診断して直ちに左胸腔ドレーンを留置した。胸水は淡血性で軽度混濁しており、胸水TP2.9 g/dL、Alb 1.5 g/L、LDH 180I U/Lと滲出性だった。処置により意識障害は徐々に改善した。ドレーン留置時に大量の胸水が漏出し、再膨張性肺水腫を来したが、酸素投与により速やかに軽快した。意識を回復した患者に病歴聴取したところ、数年前にも空洞ー胸腔シャント由来の胸水貯留で入院を要したとのことだった。病歴とCT所見等から空洞ー胸腔シャントからの髄液排出による胸水貯留と考えられた。第2病日にかかりつけ医へ転院となった。【考察】空洞ー胸腔シャントは脊髄空洞症の治療法として確立されているが、胸腔にチューブが留置されるため、肺の過膨張による気胸、胸腔の陰圧による低髄圧症候群が報告されている。空洞ー胸腔シャントからの髄液排出による胸水貯留の報告も1例認めたが胸水は漏出性胸水であり、本例とは異なる所見だった。空洞ー胸腔シャント留置患者では髄液漏出による髄液貯留によりCO2ナルコーシスや呼吸不全等の致命的な合併症をきたす可能性があることを示す、稀で教訓に富んだ症例と考えられた。

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