成人期に発症した低ホスファターゼ症の特徴について
低ホスファターゼ症(Hypophosphatasia; HPP)はアルカリホスファターゼ(ALP)をコードするALPL遺伝子の変異によりALP活性が欠損・低下することによって発症する遺伝性の骨代謝性疾患である。臨床症状としては骨の石灰化が妨げられるために生じる繰り返しの骨折、歩容異常、全身の骨格筋痛、筋力低下など様々な臨床症状を伴うことが報告されている。HPPの診断には骨の石灰化障害、乳歯の早期脱落、血清ALPの低値、ALPL遺伝子の変異などの確認が必要となる。
HPPの多くは小児や乳幼児期に発見されるが、成人期以降に上記の様な症状を発症し診断されることがある。海外と比較して本邦での報告は非常に少なく、HPPの認知度が低いためと思われる。海外では骨折を伴う例が多いのに対し、本邦では骨症状とは関係のない疼痛や日常生活動作障害という例も多い1)。そのゆえ、様々な診療科を患者さんが訪れる可能性がある。
今回の発表では、まれなHPP成人発症例について症例を提示しながら解説を加える。症例は骨粗鬆症治療中の60代女性で、明らかな外傷はなく右大腿近位部の痛みが増強し、画像上非定型大腿骨骨折やその他腫瘍病変が疑われ当院へ紹介された。検査では血清ALPの低下、骨シンチグラムによる多発骨折後の異常集積、尿中ホスホエタノールアミンの上昇を認めた。HPPを疑い遺伝学的検査を施行するとALPL遺伝子の変異が判明し、HPPと診断した。その他の症状としては乳歯や永久歯の早期脱落、長期間にわたり多発部位での疼痛、立ち上がりにくさなどの動作制限の継続といった骨以外の特徴的な症状も呈していた。
HPPは十分に疾患概念が浸透しておらず、未診断のまま繰り返す骨折、疼痛、日常生活動作制限で苦しでいる患者さんが多くいると推察される。骨以外にも多彩な症状を示す可能性がありALPの低値、乳歯や永久歯の早期脱落、多数回骨折の既往、疼痛や筋力低下などを認めるときは鑑別診断としてHPPを念頭に置く必要がある。
[1] Barvencik F, Beil FT, Gebauer M, et al. Skeletal mineralization defects in adult hypophosphatasia—a clinical and histological analysis. Osteoporos Int. 2011;22(10):2667-2675.