小児期発症低ホスファターゼ症患者を成人期に治療する:遺伝科のコーディネータ機能の可能性
低ホスファターゼ症(HPP)は、組織非特異的アルカリフォスファターゼ(ALP)遺伝子の病的バリアントにより、骨石灰化障害、乳歯早期脱落、血清ALP低値を呈する疾患である。小児型は小児期に発症し、重症度は様々で乳歯の早期喪失を伴う。2015年に導入された酵素補充療法により、小児患者を中心に診療のあり方は大きく変化した。しかし、成人患者では症状が疼痛や易疲労性といった非特異的なものである場合、介入は容易でない。当院では、小児型女性患者に対し、成人期に遺伝科がコーディネートして酵素補充療法を軸とした包括的支援体制を構築した。患者は乳歯が1歳過ぎに脱落し始め、3〜10歳まで義歯を装用した。地域小児科で血清ALP低値(1桁)を指摘されHPPと診断されたが、地域歯科の検診・治療のみを受けていた。大学在学中より、永久歯の脱落が始まり、また全身疼痛により生活制限が生じた。32歳時、妊娠を契機に当院遺伝子医療研究センターに初診した。全身疼痛、易疲労性のため、日常生活動作、生活の質が低下しており、出産後の育児困難も予想された。骨密度低下も見られ、酵素補充療法の適応と考えられた。当院で既に構築されていた他の先天性疾患のチーム医療を応用し、当センター(臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー)のコーディネートにより、糖尿病・内分泌代謝内科が治療を、リハビリテーション科(理学療法士)は治療の評価を、特殊歯科・口腔外科(歯科医師)および臨床栄養部(管理栄養士)が歯科・栄養面のバックアップを行う体制とした。酵素補充療法により、著明な筋力増強、日常生活の改善、疼痛の緩和が確認された。患者は育児だけでなく就労再開も果たし、充実した社会生活を送れるようになった。関わった医療者は各々の役割に専念することができ、診療レベルが向上し、診療にかかる負担は軽減した。遺伝科がコーディネートするHPPの包括的診療は、患者の満足度を上げるとともに診療レベル向上と医療者の負担軽減を両立しうるものであり、有意義な体制と言える。