神経障害性疼痛の診断と治療~ペインクリニシャンの立場から~
神経障害性疼痛は,「侵害情報伝達経路上に生じた病変や疾患によって,侵害受容器の興奮を伴わなず,神経伝達路上に発火・応答が発現する痛み」と定義されている(国際疼痛学会).すなわち,痛覚受容器への刺激入力はなく,末梢または中枢神経系の損傷や機能障害によって発生することが神経障害性疼痛の特徴でり,基礎研究では,障害神経におけるイオンチャネルの変化,神経発芽などのネットワーク形成,中枢での下行性痛覚抑制系の減弱などの変化が生じることが示唆されている.ただし,日常の診療において,これらの事象を根拠として診断することは不可能であるため,臨床症状である組織の損傷と釣り合わない疼痛,灼熱感,チクチク感や痺れ感などの異常感覚を確認するとともに,障害神経の神経支配に一致した領域に観察される感覚障害の他覚的所見や,疼痛を説明する神経損傷あるいは疾患を示す検査所見をもとに診断を進めていくことが必要となる.
神経障害性疼痛の薬物療法に関しては,「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改定第2版」(日本ペインクリニック学会)において,Caチャネルα2δリガンドが急性,慢性を問わず第一選択薬に位置付けられている.Caチャネルα2δリガンドは神経終末に存在するα2δサブユニットに結合することで,電位依存性Caチャネルを介したCaイオンの流入を抑制する.その結果,神経終末からの興奮性神経伝達物質の過剰放出を抑制することで痛覚刺激の伝達を抑制する作用を持つ.本邦では,Caチャネルα2δリガンドのミロガバリンが2019年から使用可能になっており,演者の後方視的検討においても,ミロガバリンは神経障害性疼痛の症状緩和に有用であった.ただし,副作用として眠気,ふらつき,めまいや浮腫などがみられるため,適応を正しく評価したうえで処方すること,副作用の慎重な監視をすることが重要である.
本講演では,演者が経験した神経障害性疼痛の症例を提示するとともに,神経障害性疼痛の治療におけるミロガバリン有用性について報告する.