[O-038] 食事によって繰り返し低血圧発作が誘発された巨大な滑脱型食道裂孔ヘルニアの1例
【はじめに】食道裂孔ヘルニアは日常的に遭遇しうる比較的一般的な消化管疾患であり加齢によって頻度が増加する。今回我々は巨大な滑脱型食道裂孔ヘルニアによる心臓の圧排で気分不良と血圧低下を繰り返した症例を経験した。【症例】71歳女性。【現病歴】家族との死別から来院1年前より食思不振が継続していた。老人性うつ増悪に伴う食思不振と判断され来院1週間前から近医精神科に入院されていた。その後食事の際に気分不良と低血圧発作を繰り返したため精査加療目的に当院紹介となった。【既往歴】高血圧症。【入院時現症】体温:36.8℃、血圧:78/36mmHg、脈拍数:74回/分、呼吸回数:24回/分。【身体所見】円背あり。発汗著明。【検査所見】胸腹部単純CTで巨大な滑脱型食道裂孔ヘルニアが認められた。上部消化管内視鏡検査では食道裂孔ヘルニアが認められた。12誘導心電図及び下部消化管内視鏡検査で異常は認められなかった。【入院後経過】当院入院後も食事を摂取する度に気分不良と低血圧発作を繰り返した。各種検査を実施後、食事によるヘルニア嚢の拡張から胸腔内圧上昇と左心房の圧排が起き、静脈還流量及び心拍出量の低下が生じたため低血圧発作を繰り返したと考えられた。手術目的に外科紹介となり腹腔鏡下食道裂孔ヘルニア修復術が実施された。手術後は食事によって誘発されていた気分不良及び低血圧発作は再発なく完全に消失し、食思不振も改善している。【考察】食道裂孔ヘルニアによる症状の大部分は胸やけや呑酸など本症に起因した逆流性食道炎などによる消化管症状が大部分を占める。無症候性に経過する食道裂孔ヘルニアも多いが本症例のような巨大な滑脱型食道裂孔ヘルニアではヘルニア嚢による心臓の圧排で迷走神経反射の誘発や静脈還流量及び心拍出量の低下を来たしうる。原因不明の血圧低下や意識消失発作を繰り返す症例では心原性以外の要因として食道裂孔ヘルニアも鑑別の一つとして考慮しなければならない。