[O-041] 診断に難渋した巨細胞性動脈炎の一例
【背景】
巨細胞性動脈炎(giant cell arteritis;GCA)は,失明等の合併症を防ぐため迅速な治療開始が必要となる疾患であるため,無治療での経過の報告は少ない.今回GCAが鑑別に挙がるも特異な経過と複数の画像検査陰性により診断遅延が生じた症例を経験したため報告する.【主訴】
発熱,後頭部痛
【病歴】
75歳の女性.X年3月14日から発熱と後頭部痛が出現したため精査目的に4月4日より消化器内科に入院となった.不明熱の鑑別の一環としてGCAも疑われ,血液検査,側頭動脈エコー・胸腹部造影CT・Gaシンチが施行されたが,炎症反応上昇を認めるのみであった.入院後3週間を経過した頃に,解熱と共に頭痛が消失し,炎症所見も改善傾向をとなり自宅退院となった.退院後は自覚症状,C R P正常のまま経過していたが,同年8月20日より発熱と後頭部痛が出現したため,当院搬送され,精査加療目的に当科入院となった.【所見】
<血液検査>CRP 17.71 mg/dL,赤沈1時間値88mm<PET-CT>左腋窩リンパ節にわずかに集積あり.<頭部造影MRI>T1強調脂肪抑制画像で,両側浅側頭動脈,後頭動脈の血管壁に全周性の増強効果を認めた.【経過】
入院後も発熱と左後頭部痛は継続した.今回の入院直後のPET-CTで認めた左腋窩リンパ節の軽度の腫脹とわずかな集積に対してはリンパ節生検も検討した.ただ、P E T-CTや一度目の入院で実施された側頭動脈エコーでは異常がなかったが,症状からはGCAの可能性も残されていると考え,造影MRIを実施したところ,上記所見を得た.ACRの分類も満たしていたためGCAと診断した.プレドニゾロン40㎎の内服を開始したところ,2日目に解熱と共に後頭部痛が消失した.プレドニゾロンを2週間で漸減し退院となった.【考察】
GCAは失明を予防するため,即座に治療を開始する必要があるが,今回のように自然寛解した場合には,その経過からGCAを疑われない可能性もある.またG C Aにおける頭頸部の血管の評価には近年P E T-CTでも異常を認めるとの報告があるが、一般的にはエコーと造影M R Iが推奨されている.入院中は担当医が望む順番で検査が行えないことが多く,PET-CTで陰性という情報がかえって診断を悩ませる結果を招いたと考えた.【結語】
自然寛解するGCAがある.また検査の順番によって診断プロセスがかえって複雑になる可能性がある.