[P-074] 高血糖高浸透圧症候群の存在下で、新規の洞不全症候群を手がかりに非ST上昇型心筋梗塞の合併を疑った1例
【背景】急性心筋梗塞(AMI)は高血糖高浸透圧症候群(HHS)の誘因の一つとも知られるが, その頻度は低く診断が困難な場合も多い. 今回, 新規の洞不全症候群(SSS)を契機に早期から非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)がHHSに合併していることを疑い, 治療介入できた症例を経験したため報告する. 【症例】2型糖尿病, 慢性心不全, 慢性腎臓病のある80歳女性 【主訴】多飲と意識障害 【病歴】X-3日に失神し, 経過観察目的に入院した. 入院後, 高感度心筋トロポニンIの経時的な上昇はなく, モニター心電図上も不整脈は認めなかったためX-1日に退院となった. 同日より多飲と意識障害を認め, X日にも症状が改善せず救急搬送となった. 【所見】生命徴候:呼吸数24 回/分, 酸素飽和度 98 %, 血圧79/50 mmHg, 脈拍38 /分, GCS 10点, 体温 36.8℃, 心電図:接合部調律, I, aVL, V4, 5, 6誘導のST低下, 血液検査:pH 7.09, HCO3 14.1 mEq/L, Na 114 mEq/L, Cl 83 mEq/L, 乳酸 33 mg/dL, 血糖 1285 mg/dL, CK 414 U/L, CK-MB 46 U/L, 浸透圧 345 mOsm/kg, HbA1c 9.4 %, 総ケトン体 68 μmol/L 【経過】X日にHHSの診断で大量補液と持続インスリン投与を開始した. 新規のSSSと下壁壁運動低下を認めたためNSTEMIの合併を疑い, 循環不全も示唆されたことから緊急で一時的ペースメーカ挿入と冠動脈造影を実施した. 左冠動脈主幹部を含む3枝病変を認め, 責任病変と思われた#2に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行した. X+2日に自己脈の出現を確認し, X+3日にペースメーカの抜去と残存病変へのPCIを施行, X+13日に退院した. 【考察】本症例では入院前日まで経口摂取も良好で脱水を示唆する病歴に乏しく, その他のHHSの誘因を積極的に検索する姿勢がNSEMIの早期診断につながった. AMIはHHSに合併し得るが, 意識障害のある場合は胸痛などの症状に乏しい場合があり, 本症例のように新規のST変化がなくても, 徐脈性不整脈を新規に発見した場合はNSTEMIを疑う積極的に疑う必要がある. 【結語】HHSの存在下でAMIの合併は常に考慮すべきで, 胸痛や心電図のST変化を認めずとも, 新規の徐脈性不整脈がそれを疑う手がかりとなることがある.