[P-077] 感染流行地域で16年ぶりに発生したレプトスピラ病死亡例
【症例】70代男性【主訴】体動困難【既往歴】なし【現病歴】受診当日に自宅浴室で動けなくなっていたところを近所の人が発見し, 当院救急外来を受診した. 【身体所見】 身長160.0cm, 体重50kg, 体温37.4度, 脈拍140回/分, 血圧103/72mmHg , SpO298%(室内気), GCS E4V5M6, 眼瞼結膜蒼白なし, 眼球結膜黄染なし, 頸部リンパ節触知せず, 肺音清・副雑音なし, 心音不整・雑音なし, 腹部平坦・軟, 両側下腿浮腫なし, 点状出血なし, 下腿の把握痛なし. 【検査結果】 血液一般・生化学所見:軽度の肝胆道系酵素上昇, 高度の腎機能障害, 炎症反応高値を認める. CT:特記所見なし. 【経過】 来院当初は脱水による腎前性腎不全を契機とした頻脈性心房細動を疑い, 細胞外液の輸液を開始した. 炎症反応高値の原因は不明であり, 各種培養を採取した. 入院2日目に臓器障害が進行した. また細菌尿・膿尿が判明し, 尿路感染症と所見よりレプトスピラ症の可能性を考え, 抗生剤治療を開始した. 抗生剤開始数時間後より, 急激な血圧低下, 見当識障害, 悪寒戦慄を認め, Jarisch-Herxheimer反応を疑った. 集中治療室で全身管理を続けたが, 入院4日目に死亡退院した. 後日, 抗菌薬投与前の検体でレプトスピラ遺伝子PCR陽性が判明し, レプトスピラ症と最終診断した. 【考察】レプトスピラ症はげっ歯類などが媒介する四類感染症であり, 本邦では沖縄県での発生例が多く, 八重山医療圏では2021年に集団発生を経験した. 観光や仕事などでの淡水暴露歴がある患者が多いが, 本症例では自宅での感染が疑われた. ICU入室を要するレプトスピラ症の死亡率は50%を超えるとの報告もあるが, 本邦では届出数の少なさから死亡例の報告は極めて稀である. 本症例では来院当初は鑑別疾患として考慮していなかったが, その後の検査所見などから早期にレプトスピラ症を想起し治療介入を開始したが救命困難であった. 【結語】急激な経過をたどり救命困難であった重症レプトスピラ症の一例を経験した. 診断の遅れが致死率の上昇につながるため, 疑わしい病歴, 検査所見があれば積極的にレプトスピラ症を鑑別する必要がある.