[P-088] 低体温で受診し、著明な血小板低値が遷延した重症日本紅斑熱の一例
背景日本紅斑熱は発熱、紅斑、刺し口を3徴とするが、非典型的な症状及び経過を示すと、診断及び治療に苦慮することがあり、治療介入の遅れにより急速に重症化することがある。症例69歳女性主訴低体温、意識障害病歴X-10日に庭の草払いをした。X-4日に体動困難となった。X日に意識レベル低下のため救急搬送となった。所見JCS Ⅱ-30, BP 163/96 mmHg, HR 129/min、著明な冷感を認め、皮膚温は測定できず、直腸温34.4℃、SpO2は測定不可能で、眼球結膜、眼瞼結膜の充血及び手掌を含む全身に多数の紫斑と紅斑、右背部に痂皮を認めた。血液検査で白血球上昇(WBC 28900/μL, SEG-N 93%)と軽度貧血、著明な血小板減少(PLT 1000/μL)、炎症反応の上昇を認めた。経過リケッチア症、重症熱性血小板減少症候群、敗血症を鑑別にあげて治療を開始した。抗生物質はミノサイクリン、メロペネム、バンコマイシンの3剤を投与し、入院後まもなくショックとなったため、人工呼吸器管理下に集中治療を行った。多量の下血が見られたため、濃厚赤血球、血小板、新鮮凍結血漿を投与した。X+3日に痂皮のPCR検査で日本紅斑熱と確定診断ができたため、ミノサイクリンのみ投与を継続した。全身状態は徐々に改善したが、血小板値は上昇しなかった(X+6日PLT 6000/μL)。同日の骨髄細胞診で、血小板、赤芽球の貪食像を認め、日本紅斑熱を原因とする血球貪食症候群と判断した。その後抗生剤投与を継続し、全身状態は軽快し、血液所見も改善した。考察日本紅斑熱の急性期には、急激な発熱と発疹を認めるが、本症例ではこれまでほとんど報告されていない低体温と紫斑、著明な血小板低下を認めたため、診断に難渋したが、病歴及び皮膚所見から日本紅斑熱に対する初期治療を開始し、適切な集中治療を行うことで救命することができた。また、ステロイドパルス療法などを実施しなくても、日本紅斑熱の軽快とともに血球貪食症候群も改善することが確認できた。結語今後の日本紅斑熱の重症例の治療において、稀な経過をたどった本症例を呈示することは有効であると考えられた。