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2月19日 (日)

プログラム

抄録





[P-091] 複数の認知バイアスにより診断が遷延し、転院後に偽性副甲状腺機能低下症による横紋筋融解症と判明した1例


【背景】近年、診断エラー学は日本国内でもワーキンググループが立ち上がり、急速に理解や分析が進んでいる分野である。今回、希少疾患による稀な症候であったが、複数の認知バイアスによって診断遅延となった症例を経験した。【症例】44歳 男性【主訴】上下肢筋硬直、呼吸困難感、手指しびれ【病歴】X年2月より倦怠感、食思不振を自覚。2月26日夜間より上下肢筋硬直、呼吸困難感でA病院救急搬送。CPK 1200 U/lと高値であったが、症状改善し帰宅。28日夜間に同様の症状に加え手指しびれ感もあり当院救急搬送。両肘、手指にそれぞれ角化性皮疹を認め、CPK 3258 U/Iとさらに上昇あり皮膚筋炎疑いで緊急入院。【所見】両手指に手荒れのような角化性皮疹、両肘に黒色角化性皮疹あり。筋把握痛や筋脱力所見はなし。【経過】胸部CTで間質性肺炎の所見なし、抗核抗体 40倍(細胞質型陰性)、抗ARS抗体陰性。その後も症状持続し、3月2日にCPK 11447 U/I まで上昇。両大腿−下腿MRIで腓腹筋主体に軽度炎症所見認めるも皮膚筋炎としては非典型であり、B病院に転院となった。転院時スクリーニング検査で補正Ca 3.7mg/dlと著明低値であったが、翌日、指導医の指摘で直ちにグルコン酸カルシウムで補正が開始され筋症状やCK値は改善し低Ca血症による横紋筋融解症と診断。追加精査の結果、偽性副甲状腺機能低下症の診断に至り、活性型ビタミンD製剤開始後はCa値正常化維持し、筋症状再燃なく経過した。【考察】低Ca血症由来の横紋筋融解症は稀である。本例においては重度のビタミンD欠乏 (25OHD 10.1 ng/ml)を有していたことも相まって、慢性的に低Ca血症が進行していたことが原因として示唆された。今回、夜間救急外来というセッティングで振り返ると微妙な皮膚所見にアンカリングし、診断の早期閉鎖となった結果、鑑別疾患想起が不十分となった。転院先においても診断モメンタムで初日の低Ca血症が注視されなかったと推測した。【結語】夜間救急外来のような特殊なセッティングにおいては、特に認知バイアスが生じやすいことを意識し、難渋する場合は時間をおいて診断プロセスの見直しを行うことが重要である。

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