[P-093] 大腿筋膿瘍の侵入部位同定に難渋した1例
【背景】皮膚軟部組織の膿瘍のある症例では入念な身体診察や検査にも関わらず細菌の侵入門戸が不明確であることも多い。今回、右大腿筋膿瘍で入院したが細菌の侵入部位の同定に難渋した症例を経験した。【症例】64歳男性。直腸癌術後で、尿管浸潤および多発肝転移があり化学療法中。尿管浸潤に対して右尿管ステント留置されている。【病歴】来院1ヶ月前より右大腿の痛みを自覚していた。同部位の腫脹と疼痛が強く歩行困難になったため前医に救急搬送。来院時ショックバイタルであり、当院へ搬送。【所見】バイタルサインは、意識JCS0、血圧103/66mmHg、心拍126回/分(整)、呼吸数24回/分 SpO2 99%(room air)、体温36.9度であった。右大腿の発赤は境界不明瞭で大腿全周囲に分布。腫脹・熱感・把握痛も認めた。水疱や紫斑の形成は認めずFinger testも陰性。仙骨部にNPUAPⅡの褥創認めた。下肢には細菌の侵入門戸と思われる皮膚病変なし。単純MRIでは右外側広筋中心に大腿の筋層内にT2高信号の腫瘤を認めた。血液培養と尿培養からB群溶血性連鎖球菌(GBS)が検出された。【経過】敗血症性ショックとして広域抗菌薬を開始し、培養結果を確認しde-escalationした。同部位の穿刺吸引を行うも大腿の膿瘍は縮小せず発熱は持続した。入院経過中に肝転移の増大などがんの進行も認め、第91病日に死亡した。【考察】大腿膿瘍形成の経路として尿路・褥瘡・骨転移・骨髄炎など考えられたが、その経路は不明確であった。膿瘍穿刺検体の培養からもGBSが検出されていることから尿路との関連も疑われた。CT所見を経時的に見返すと尿管周囲にも膿瘍形成が認められ、また大腿膿瘍との連続が確認された。今回の筋膿瘍は尿路が起源と考えられた。【結語】大腿筋膿瘍の侵入部位の同定が困難であったが、微生物の特性や画像所見から最終的には侵入部位を同定できた。より早期に同定できていれば患者の治療成績を向上させられた可能性がある。