[P-105] Mycobacterium abscessus complexによる術後縦隔炎に対して多剤併用の抗菌薬治療を必要とした一例
【背景】Mycobacterium abscessus complex (以下, MABC)は自然環境に広く分布する迅速発育抗酸菌で, ヒトでは肺炎や皮膚軟部組織感染症の原因となり, しばしば難治性となる. 近年, 病院内の水環境やエアロゾルが同菌に汚染され院内感染を起こす症例が報告され問題となっている. 今回, 大動脈弓部置換術後に MABC による縦隔炎を発症し, 多剤併用の抗菌薬加療を要する一例を経験した. 【症例】大きな内科的既往のない77歳男性【主訴】発熱【病歴】当院転院10ヶ月前, Stanford A大動脈解離を発症し, 他院で大動脈弓部置換術が行われた. 当院転院5ヶ月前, 創部より膿性滲出液を認め, 縦隔炎と診断し, デブリドマンと抗菌薬治療が行われたが感染が制御できず, 当院へ転院となった. 上行大動脈置換術が再度行われ, 術中の心嚢液培養, および血液培養より MABC が分離された. 以上の経過から, 同菌による術後縦隔炎および菌血症の診断で, 抗菌薬選択のために当科紹介となった. 【所見】創部の排膿は消失したが, 発熱が遷延していた. 【経過】以上からMABC による持続菌血症を来していると考えられた.アミカシン+イミペネム+レボフロキサシンの併用治療を開始したが, MABC がイミペネム, レボフロキサシンに耐性と判明し, アミカシン+クラリスロマイシン+チゲサイクリンに変更した. 治療5日目で血液培養陰性化を確認し, 以後全身状態と炎症反応は継時的に改善した. 経過良好のため, 転院に際し, 血液培養陰性から8週目にクラリスロマイシン+ST合剤の内服へ変更し, 治療を継続している.【考察】 MABC は院内感染の原因となることがあり,心臓血管手術後の侵襲性感染症の報告もある.侵襲性感染症は多剤併用の長期の抗菌薬治療を必要とするが, MABC の内因性および獲得耐性のためしばしば治療に難渋し予後不良となる. 本例は治療開始時点で既に複数の抗菌薬に耐性だったが, 十分な外科的ドレナージと抗菌薬併用療法を行ったことが良好な治療経過につながったと考えられる. 【結語】抗菌薬耐性 MABC による術後縦隔炎に対し, 多剤併用の抗菌薬治療を行い良好な治療経過を得た一例を経験した.