[P-133] 大動脈解離を想起する突然発症の背部痛を呈した、まさかな一例
【症例】81歳男性【主訴】背部痛【既往歴】前立腺癌術後,脂質異常症,高血圧症【現病歴】X-1日の夜から背部全体に人生で感じたことのない疼痛を自覚し,その後も疼痛が持続し,原因検索目的にX日に当科外来を受診した.NRSは10で,呼吸や体動で変化なく部位は移動しない.悪心嘔吐はなし.【生活歴】飲酒:毎日 2合、タバコ 40 pack year【身体所見】意識清明,体温36.5℃,血圧 138/64mmHg,脈拍56回/分,呼吸数12回/分,腹部血管雑音なし,腹部平坦・軟で圧痛なし,明らかな皮疹なし【検査結果】血液検査:白血球:5,400/μL,CRP:1. 6mg/dL,D-Dimer:1.8μg/mL,アミラーゼ:75U/L,リパーゼ:45U/L【経過】持続する強い背部痛や患者背景から大動脈解離や急性膵炎を想起し,問診を早々に切り上げ緊急で血液検査と造影CT検査を施行した.検査では,大動脈解離や急性膵炎を示唆する所見を認めなかった.造影CT検査を見直すと胃前庭部前壁に粘膜下層の肥厚を認めた.再度問診を行ったところ,症状出現の数時間前に新鮮なイカを食べていたことが分かった,上部消化管内視鏡検査で胃体下部大弯側にアニサキスの虫体が確認され摘除した.【考察】胃アニサキス症はアニサキスが寄生した魚介類の生食数時間後の激しい上腹部痛,悪心,嘔吐をもって発症する.そのため,今回は初期の段階できちんと問診していれば,CT検査で大動脈解離の診断を外した時に胃アニサキス症の診断がスムーズに出来た可能性がある.今までに「魚介類の生食歴からアニサキスを考慮したが大動脈解離であった症例」は報告されているが,本症例に類似した報告はない.実際十二指腸潰瘍の内臓痛に代表されるように,上部消化管の粘膜の炎症で背部痛をきたすことがあることから,アニサキス症により背部痛をきたす可能性はあり得る.本症例のようにハイリスク患者で大動脈解離のように緊急性が高い疾患を想起した際にも,主訴の文言のみに捕らわれず食事歴など基本情報を幅広く問診することも重要である.【結語】緊急性が高い疾患を想定しても患者移送時など可能な限り患者背景情報を収集し,まさかな鑑別に備えることが重要である.