膵島単離外科医が知るべき膵臓の発生と解剖

◎金 達也1
アルバータ大学病院膵島移植プログラム1

 膵管へのカニュレーションは膵島単離における必須かつ最重要手技である。手技の熟練も重要だが膵臓の発生/解剖を熟知することがまず基本となる。演者はドナー膵臓および自家膵島移植のための摘出膵臓より約 2,000 例の膵島単離を施行してきた。その経験から得られた膵臓の発生/解剖に関する知見を共有したい。
(1) Pancreas divisum は最も頻度の高い Ductal anomaly であり、膵島単離外科医なら必ず遭遇すると言ってよい。Dorsal duct と Ventral duct の交通がないことを Intraductal distension の際に証明できれば診断は容易であり MRCP や ERCP などの画像診断より信頼度は高い。Dorsal system に1本、Ventral system に1本のカニュレーションが最低限必要になる。
(2) 発生過程で Ventral pancreas 原基が反時計回りに回転移動して Dorsal 原基に融合するのではない。十二指腸左側が右側に比して急激に成長する結果、Ventral 原基があたかも"回転"すると理解するべきである。
(3) 融合後 Ventral と Dorsal pancreas 実質間の境界は肉眼的に認識できない。Pancreas divisum においても同様である。発生学的理論に基づいたVentral pancreatectomy や Dorsal pancreatectomy の症例報告が散見されるが、これらの手術は本質的に不可能である。
(4) Ventral duct が Vater 乳頭で開存していない例が稀にある。自験例では Ventral のみ開存 46.7%、Dorsal のみ開存 3.2%、両方とも開存 50.1%であった。
(5) 発生過程で膵体尾部は膵臓の長軸に沿って 180度回転する。これには大網の発達が関与している。成体の体尾部腹側表面は Dorsal 原基の右側表面に由来する。体部中央で実質切開して膵管露出を試みる場合、背側表面を腹側表面と誤認しやすい。
(6) Circumportal pancreas の存在の可能性を意識をして門脈・SMAを剥離摘除すべきである。演者は3例経験した。
(7) 膵内胆管は膵実質を損傷することなく完全摘除できる。Ventral / Dorsal pancreas 間の空隙よりアプローチすることで可能となる。


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