O-003 ヒト膵島細胞における膵島細胞機能と老化関連遺伝子の発現・関連性についての検討
◎今村 一歩1
足立 智彦1
金 達也2
宮本 大輔1
松島 肇1
哲翁 華子1
吉野 恭平1
丸屋 安弘1
原 貴信1
曽山 明彦1
日高 匡章1
金高 賢悟1
江口 晋1
長崎大学大学院移植・消化器外科1
アルバータ大学 膵島移植プログラム 2
【背景・目的】 一般的に高齢者の膵臓では加齢性変化に伴いインスリン分泌能が低下している。そのため、現状では高齢者ドナーを一要因として、膵・膵島移植が回避される傾向にある。一方、加齢性変化に伴うヒト膵島細胞機能と老化関連遺伝子の発現・関連性についての解析は十分でない。本研究では、様々な年齢のヒト膵島細胞について、患者背景や膵島機能と老化関連遺伝子の発現の関連性の有無を明らかにすることを目的とした。
【方法】 2021年7月〜2022年8月にアルバータ大学 膵島移植プログラムより空輸にて提供を受けたヒト膵島を用い、RT-PCR法による遺伝子解析を施行。インスリン(INS)、グルカゴン(GCG)、老化関連遺伝子(GLS1,p16,IL6,IL8)について解析を行い、各遺伝子間の関連性について統計学的検討を施行。
【結果・考察】 対象期間における解析対象の膵島ドナーは18名。年齢中央値: 47(20-67)歳、BMI: 30.2(22.4-36.6) kg/m2、HbA1c: 5.6(51.-6.2)%、Cold ischemic time: 9.2(2-15.8)時間。 細胞老化との関連が示唆されているGLS1については、年齢との間に統計学的有意差はないが正の相関の傾向を認めた(p=0.06)。他の老化関連遺伝子であるp16,IL6,IL8のそれぞれについては、年齢との間には統計学的有意差なく、相関傾向についても認めなかった(p=0.11, 0.34, 0.22)。 一方、GLS1とINS(p=0.34)、GCG(p=0.66)およびp16 (細胞周期を不可逆的に停止させるマスター因子、p=0.22)との間に相関は認めず。炎症系マーカー(IL-6)、酸化ストレスマーカー(IL-8)とINS, GCGにおいても相関は認めず。
【結語】 膵島ドナーとして分離された集団においては、年齢と老化細胞の増加に相関関係が見られたが、老化関連遺伝子と膵機能遺伝子との相関は明らかでなかった。暦年齢が必ずしも臓器機能発現と関連していない可能性があり、今後は臓器年齢・生物学的年齢を示す指標を明らかにすべく更なる検討を行う。