低分子刺激を利用した新規ヒト膵島オルガノイドの作製と治療技術の開発

◎宮本 大輔1  今村 一歩1  金 達也2  足立 智彦1  哲翁 華子1  松島 肇1  日髙 匡章1  金高 賢悟1  江口 晋1
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科1 アルバータ大学臨床膵島移植プログラム 2

(目的)本研究では消化器疾患の一つである1型糖尿病に対するオルガノイド治療法の開発を試みる。1型糖尿病は自己免疫性または特発性にβ細胞が破壊されインスリン分泌能が廃絶する疾患である。根治治療は移植療法のみとされるものの、複数回移植を必要とする膵島移植では安定したドナー確保が困難といった点に課題がある。そこで近年では膵島あるいは膵β細胞を用いて細胞シート移植やスフェロイド移植等が研究されてきた。本研究では低分子化合物刺激を利用した前駆細胞への誘導技術に着目し、ヒト膵β細胞に低分子化合物刺激を与えより高次元化させたヒト膵島様オルガノイド(Human islet like organoid:HIO)を構築し新たな膵島移植技術の開発を行うことを目的とした。(方法)アルバータ大学より摘出後空輸したヒト膵島(13例)よりヒト膵β細胞を分離し脂肪組織幹細胞(ADSC)と混合させ、U底プレートに播種し低分子化合物添加培地にて培養しHIOを作製した。作製したHIOを1型糖尿病モデルマウスの腎被膜下に移植させ血糖値測定によってオルガノイドとしての性能を評価した。(結果・考察)ヒト膵β細胞単独に形成させた単培養化HIOにおいては低分子化合物刺激を与えることでサイズが増大し、ADSCと共培養させたHIOではさらなる細胞増殖が確認された。また共培養化HIOの遺伝子発現を比較した結果、インスリンならびにグルカゴンの発現は低分子化合物刺激によって上昇した。次にHIOを1型糖尿病モデルマウスの腎被膜下に移植させた結果、低分子化合物刺激を与えたHIO群において血糖値の上昇を抑制した。この現象としては低分子刺激によって膵β細胞が活性化し高い増殖性ならびに機能発現を誘導させたと推測される。このことより共培養ならびに低分子化合物刺激を組み合わせたHIO形成技術は新たな糖尿病治療における有効な技術の一つといえる。

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