WSP1-005 脳死膵臓移植術後腸閉塞の発症頻度とそのリスクファクターの解析
◎門 威志1
富丸 慶人1
小林 省吾1
伊藤 壽記2
佐々木 一樹1
岩上 佳史1
山田 大作1
野田 剛広1
高橋 秀典1
土岐 祐一郎1
江口 英利1
大阪大学消化器外科1
大阪がん循環器病予防センター 2
【背景】腸閉塞は腹部手術後の代表的な合併症であり,膵臓移植患者においてもしばしば認められる.膵臓移植患者では背景疾患の1型糖尿病による胃腸障害の影響も相まって,一般的な腹部手術よりもその頻度が高い可能性が示唆されるが,膵臓移植後の腸閉塞の発症率やリスク因子については明らかではない.そこで,今回,膵臓移植後の腸閉塞の発症頻度やリスク因子などの詳細について検討した.【対象・方法】当院にて2000年4月から2021年10月までの期間に1型糖尿病に対して脳死膵臓移植を施行した56例を対象とした.対象症例における,術後腸閉塞の発症頻度やリスク因子などの詳細を評価した.今回の解析では,入院加療を要したものを腸閉塞と定義した.【結果】膵臓移植後の腸閉塞は56例中13例(23.2%)に認められた.発症時期は術後1222±1070日で,術後腸閉塞を発症した13例のうち,5例(38%)が手術加療を要した.うち1例ではグラフト十二指腸穿孔を併発し,最終的に膵グラフト摘出に至った.術後腸閉塞発症例(13例)と非発症例(43例)の比較では,ドナー因子に有意差を認めなかった.レシピエント因子では腸閉塞発症例において移植時の年齢が有意に若年であった(42±5歳 vs 48±8歳:p=0.0048).糖尿病罹病期間を含め,その他のレシピエント因子に有意差を認めなかった.手術因子に関しても両群間に有意差を認めなかった.Cox比例ハザードモデルによる術後腸閉塞発症に関する単変量解析では,術前および術中因子のうち,術中出血量のみが有意な術後腸閉塞発症に関連する因子であった(p=0.0254).なお,膵臓移植後の膵グラフト生存率は両群間に有意差を認めなかった.【考察・結語】膵臓移植症例における術後腸閉塞発症率を明らかにした.この腸閉塞発症率は,既報告の他腹部手術よりも高率であった.また,そのリスク因子として術中出血量が同定されたことから,膵臓移植時の術中出血量を減らすことが術後腸閉塞発症抑制に繋がり得る可能性が示唆された.