1型糖尿病Up date 〜膵・膵島移植の適応に関する私見も踏まえて〜

◎堀江 一郎1
長崎大学病院 内分泌・代謝内科1

1型糖尿病では、膵ラ氏島のβ細胞量が20~30%前後まで減少すると、インスリン分泌不全に陥り臨床的な糖尿病発症に至る。1型糖尿病治療の原則は適切なインスリン補充であるが、様々な状況下で異なるインスリン感受性に加えて、食事や活動量といった日々変化するものに対応して適切なインスリン量を決定することは、カーボカウント法の習得者でもかなり難しい。
しかしながら近年の技術革新によって、持続グルコースモニタリング(CGM)の精度が向上し、簡便に使用可能となったことから1型糖尿病治療は飛躍的に進歩した。また、CGMと連動し基礎インスリン注入量を自動調整するクローズドループ機能を備えたインスリンポンプも使用できるようになり、夜間など食事を取らない時間帯の血糖コントロールはほぼ完璧にこなせるようになった。そのほか、従来の超速効型よりもさらに作用発現が早いインスリン製剤の登場や、インスリン非依存的な機序で血糖を安定化させるSGLT2阻害薬の適応拡大、そして低血糖時のグルカゴン点鼻薬の普及なども大いに1型糖尿病治療に貢献している。
一方で、これらの先進機器や薬剤を活用してもなお血糖制御が困難な1型糖尿病患者は、ある一定数存在する。内因性インスリン分泌が限りなく枯渇し、予測不能の血糖変動が認められる、いわゆるブリットル型と言われるタイプである。β細胞が失われると、ラ氏島内の細胞間コミュニケーションネットワークに障害が生じ、隣接する細胞の機能障害を起こす。特にα細胞機能障害は、低血糖時のグルカゴン分泌不全や食後のグルカゴン奇異性分泌など、血糖不安定性に深く関与していると考えられている。ブリットル糖尿病の多くは、糖尿病腎症や神経障害などの糖尿病合併症が進行した患者であり、血糖管理以外にも多くの問題を抱えていることが多い。膵移植や膵島移植は、このようなブリットル型患者に対して、現状で状況を打開できる唯一の治療法と言える。本セミナーでは、1型糖尿病治療のUp dateとともに、私が考える膵・膵島移植の適応患者について解説したい。

略歴
2003年  長崎大学医学部 卒業
2010年  長崎大学大学院医歯薬学総合研究科放射線医療科学専攻 博士課程 修了
2013年  長崎大学病院 内分泌・代謝内科(第一内科)助教
2021年  同 講師

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