WSP2-004 ヒト膵島の研究転用の重要性

◎稲垣 暢也1
公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院1

糖尿病研究には膵島を用いた研究が必要であることは論を俟たない。わが国ではこれまでに主にマウスやラットなどのげっ歯類の膵島が主に用いられてきた。しかし、ヒトとげっ歯類の膵島は、構造や遺伝子発現、生理機能、病態生理学的変化などにおいて種差があることが知られており、ヒトにおける糖尿病の病態解明や治療法の開発には、ヒト膵島を用いた糖尿病研究が不可欠である。
欧米では、すでに公的システムによるヒト膵島分配システムが構築されており、ヒト膵島を用いた研究が広く行われている。一方、わが国においては現在、ヒト膵島を用いた研究は欧米から輸入しない限り不可能であり、新鮮な膵島を用いた研究もほぼ不可能となっている。また、日本人の2型糖尿病は、欧米人のそれと比較して、インスリン分泌不全型を特徴としていることから、日本人の糖尿病の病態解明や治療のためには、日本人のヒト膵島を用いた研究が必要である。
このような背景のもと、わが国では、2019年5月に開催された第62 回日本糖尿病学会年次学術集会のシンポジウムでこの問題を取り上げたことが契機となり、2020年11月に日本糖尿病学会、日本膵・膵島移植研究会、日本組織移植学会の3学会の委員と外部委員とからなるワーキンググループが立ち上がり、膵島移植目的にドナーから提供されながらも、種々の事情により膵島移植に利用されなかった残余膵島を、全国の研究者へ分配し研究を可能とする体制づくりに関する議論を開始した。そして、2022年1月には、3学会合同による研究用膵島供給事務局会議が設置された。現在、この事務局会議が中心となり、日本組織移植学会の「バンキングされたヒト組織供給のためのガイドライン」に沿って、具体的な膵島の分配システムを確立すべく検討を行っている。

略歴
1984年3月  京都大学医学部卒業
1984年6月  京都大学医学部附属病院内科 研修医
1985年6月  田附興風会 北野病院 研修医
1986年6月  同 医員 
1992年1月  京都大学大学院医学研究科博士課程修了 (医学博士)
1992年3月  千葉大学医学部附属高次機能制御研究センター 助手
1995年6月  同 講師
1996年11月  同 助教授1997年9月  秋田大学医学部生理学第一講座 教授
2005年4月  京都大学大学院医学研究科 糖尿病・栄養内科学
                    (2013年より糖尿病・内分泌・栄養内科学に改称)教授
2015年4月  京都大学医学部附属病院 病院長(併任)(2019年3月まで)
2021年4月  京都大学医学部附属病院 先端医療研究開発機構(iACT)機構長(併任) 
2022年10月~ 京都大学名誉教授/京都大学大学院医学研究科 特命教授
2022年10月~ 公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院 理事長 現在に至る
専門: 内科学、糖尿病学、内分泌・代謝学、病態栄養学
学会および社会活動など: 日本内科学会(副理事長)、日本糖尿病学会(常務理事)、日本内分泌学会(理事)、日本病態栄養学会(理事)、日本膵・膵島移植学会(副理事長)、日本糖尿病合併症学会(常務理事)、日本糖尿病・肥満動物学会(常務理事)、日本糖尿病対策推進会議(幹事)、日米医学協力委員会(栄養・代謝部会長)、アジア糖尿病学会(AASD)(Executive board)、日本糖尿病協会(理事)、京都府医師会糖尿病対策推進事業委員会(委員長)、京都府糖尿病協会(会長)など
受賞: 日本糖尿病学会リリー賞(1997年)、日本医師会医学研究奨励賞(1997年)、第50回エルウィン・フォン・ベルツ賞1等賞 (2013年、共同受賞)、日本病態栄養学会アグライア賞(2014年)、日本糖尿病・肥満動物学会 米田(こめだ)賞(2015年)、日本糖尿病学会 ハーゲドーン賞(2019年)、安藤スポーツ・食文化振興財団 安藤百福賞「優秀賞」(2020年)など




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