臓器・細胞移植における制御性T細胞を用いた臨床研究の動向と本邦における移植後免疫寛容を目指した臨床治験の現状

◎内田 浩一郎1
順天堂大学免疫治療センター1

膵・膵島移植は、至適ドナーの選択・グラフト採取法や、移植前のプレコンディショニング・免疫療法の開発により、グラフト生着率は向上し、移植患者の長寿が期待できる時代となった。 一方、患者は拒絶反応を予防する免疫抑制剤の生涯に渡る内服を要するため、感染症、発癌のみならず、耐糖能異常の発生リスクもまた漸増し、そのグラフト生着や予後に影響を与えている。 そのため、免疫抑制剤の最低用量化や完全離脱である免疫寛容状態の誘導は、膵・膵島移植患者の長期予後を改善させる治療法として期待されている。
 当研究室では、移植片への選択的な免疫制御機能を持つ誘導誘導型抑制性T細胞(JB-101)を研究開発し、生体肝移植において免疫寛容を誘導する有効性とその安全性について、医師主導治験を実施している。 この新規免疫細胞は、FoxP3陽性CD4陽性制御性T細胞と抑制性CD8陽性T細胞を主に構成され、レシピエントのT細胞を原料とし、ドナー抗原とT細胞共刺激阻害剤(CD80抗体、CD86抗体)で培養誘導される。先行研究においては、その単回投与により10年以上の免疫抑制剤離脱に成功するという画期的な有効性はもつものの、本治験の実施と将来の普及に向けた開発課題は多く残っている。 また、免疫寛容の誘導が、従来の肝移植と比較し、その長期的な有効性・安全性の持続やQOLを評価することで、医療経済効果をどの程度もたらすかも大切な課題となっている。 
 本セミナーにおいて、実施中の医師主導治験で得られている新たな知見や開発課題を共有させていただくと共に、膵・膵島移植へと応用されつつある免疫細胞治療についてもレビューさせていただきます。

略歴
平成16年 順天堂大学医学部 卒業 
            順天堂医院 初期臨床研修医
平成18年 北海道大学 消化器外科I 入局
平成22年 マイアミ大学ジャクソン記念病院 
              臨床移植外科フェローシップ
平成24年 旭川医大 消化器外科移植外科 
平成26年 順天堂大学アトピー疾患研究センター 助教
令和 3年 順天堂大学 免疫治療センター 副センター長・准教授
           移植再生免疫学  准教授
所属学会: 日本移植学会(トランスレーショナルリサーチ委員)、
      日本肝移植学会、日本外科学会、アメリカ移植外科学会



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