固形臓器移植感染管理のUp To Date ―外科と内科のクロストークー

◎田中 健之1,2
長崎大学病院感染制御教育センター1 長崎大学大学院・熱帯医学・グローバルヘルス研究科 2

固形臓器移植の周術期感染管理の基本は、ワクチンによるVaccine preventable diseases (VPDs)の予防、予防抗菌薬投与、日和見感染症早期発見先制治療、重症感染症合併への適切な治療選択の4つの要素である。
感染症の治療は抗微生物薬の開発により大きな改善があった歴史があるが、昨今は抗微生物薬の開発は非常に限定的なものに留まり、それと相反するように、薬剤耐性菌の問題が大きな要素を占めるようになった。抗菌薬適正使用支援チーム(AST)の取り組みを評価する「抗菌薬適正使用支援加算」が2018年に新設され、多くの病院で支援チームが発足した。このチームの活動や従来の感染症科により院内感染症コンサルテーションにより薬剤耐性菌の問題をより効率よく取り組むには内科側からのアプローチだけでなく、外科側の理解も必要である。
 日本はこれまで様々なVPDs対策で、海外より遅れをとった事例がいくつかある。そこには日本社会全体のワクチン接種へ慎重な考えが非常に強いという背景もある。移植前に接種すべきワクチンも日本移植学会 成人臓器移植予防接種ガイドラインを参考に実践されているが、全国での遵守率はこれまでわかっていない。この遵守状況を共有して、問題点を共有したい。
 日本での感染症専門医の数は都合府県での地域差があることが問題となっている。臓器移植という高度医療の過程において感染症医の貢献はほんの一部であるが、その予後に影響する感染症のインパクトは非常に大きい。感染症医が普段、どのように考えて対応をするのか、また、外科の先生方の事をどのように理解しようとしているのか、また、相互の理解にはどのような要素が重要なのか、内科医の立場からの意見をもとに議論の場としたい。

略歴
2002年(平成14年)熊本大学医学部卒業、長崎大学医学部付属病院熱研内科研修医
2003年 日赤長崎原爆病院 研修医
2004年 十善会病院 内科(呼吸器科)
2005年 国立病院機構長崎神経医療センター(現:川棚医療センター)呼吸器内科
2006年4月-2011年8月 長崎大学病院熱研内科(熱帯医学研究所臨床感染症学分野) 医員
2011年9月-2013年9月 米国コロラド大学/National Jewish Health 呼吸器科・集中治療科 ポスドク研究員
2013年10月-2014年3月 長崎大学病院 感染症内科(熱研内科)助教
2015年4月-2018年3月 長崎大学病院 感染症内科(熱研内科)講師
2018年4月―2020年8月  長崎大学病院 感染制御教育センター 講師
2020年9月―現在 長崎大学病院 感染制御教育センター 病院准教授
<所属学会および専門医資格等>
日本感染症学会(感染症専門医・指導医)・評議員
日本内科学会(内科認定医、総合内科専門医)、
日本呼吸器学会(呼吸器専門医・指導医)
ICD(インフェクション・コントロールドクター)
日本移植学会、日本エイズ学会、日本環境感染学会、日本化学療法学会、日本結核・非結核性抗酸菌症学会、米国胸部学会(ATS: American Thoracic Society)
<社会活動>
・日本移植学会感染症対策委員会委員
・長崎市感染症診査協議会委員、長崎県新型コロナウイルス感染症調整本部調整員
・JICA国際緊急援助隊感染症対策チーム(診療班)作業部会委員
・サモア麻しん流行に対するJICA国際緊急援助隊・感染症対策チーム(診療班)派遣(2019年12月)
・JICAメキシコ「メキシコ国ユカタン半島にあるユカタン自治大学野口英世博士地域研究所感染症対策能力強化」の運営指導調査団の感染症専門家派遣2022年9月
・JICAパナマ「パナマゴルガス記念研究所へのJICAによる感染症対策能力強化支援「パナマにおけるCOVID 19 他新興感染症に係るサーベイランス及び検査能力向上プロジェクト」の感染症専門家派遣2022年9月
・日本呼吸器学会/集中治療学会/呼吸療法学会 ARDS診療ガイドライン2021改訂版作成SR(システマチックレビュー)委員会委員
<専門領域>
臨床感染症、呼吸器感染症、院内感染制御、感染症コンサルテーション
<研究テーマ>
・ARDS、敗血症性ショックの血管透過性亢進の制御
・HIV感染症における日和見感染症の疫学研究

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